ミスト ミラクル アンド リリーフ 1
最初に思ったのは、なんでこの人黒髪になってるんだろう、で。
次いで思ったのは、なんでこの人がここにいるんだろう、だった。
ミスト ミラクル アンド リリーフ
『ア、ラウディ…さん……?』
『やぁユキ。腕を上げたね』
口角を少し上げただけの笑顔に、懐かしさが込み上げた。
上に跨がるような格好になっていたアラウディが退き、両手首の手錠が外された後、ユキは跳ねるように起き上がり、蹲った。先ほど拳を叩き込まれた腹が痛い。
『よ、容赦ないですね…。アラウディさん』
『楽しかったからね』
答えになっていない気がする。
だいたい、どこが楽しんでいたというのだろう。あんなに殺気をばりばり出していて……本当に死ぬと思ったのに。
なんとか立ち上がり、なぜここにいるのかを問おうと口を開いたとき、倒れていたいたD部隊の構成員達が微かにうめき声を上げた。
『大丈夫ですか!?』
『うぅっ…。いったい、何が…?』
何が起こったのかわからないという顔をしているが、全員大きな怪我はないようだ。
アラウディはその鮮やかな手並みで彼らを一瞬で気絶させたらしい。殺されたと勘違いしてしまうほど、一瞬だった。
『それで、アラウディさんはどうしてここにいるんですか?』
『散歩をしていたんだよ』
簡潔な答えにユキはがくっとなる。彼らしいといえばすごく彼らしいが、今は敵ファミリーとの戦争の最中なのに。
『そしたら、ユキがいた』
長い指で頬を撫でられて、顔を上げるとアラウディが微笑んでいた。
『ちゃんと、生きてたね』
吐息のような言葉に、彼もまた自分のことを心配してくれていたのだと気づいたユキは、笑顔を返して華奢ではあるが大きな手に、自分の手を重ねる。
『で、強くなったみたいだからちょっと戦ってみたくなった』
『その思考回路はおかしいと思います!』
本当に殺されると思ったんですから!とアラウディに詰め寄ったユキは、ふと動きを止めた。
殺されかけた…さすがにアラウディに殺すつもりはなかっただろうけど、あの殺気は本当に殺されると思った。
けれど……。
『? ユキ、何を笑っているんだい?』
アラウディの眉が訝しげに寄せられる。ユキはへにゃりとした笑顔を、最強の守護者に向けた。
『自分の気持ちが、見えました』
アラウディはしばらく無言でユキの笑顔を見ていたが、みるみるうちにその整った美麗な顔が不機嫌になっていった。
『え? え?どうしたんですか?』
『結構楽しかったのに…。台無しだよ』
『えええ!?』
ぷいと顔を背けてしまったアラウディと、なんで彼が不機嫌になったのかわからずおろおろするユキのもとへ、D部隊構成員のひとりが近づく。最強の守護者に殴られたところが痛そうだ。
『痛ってて…。アラウディ様、ご無事でなによりでございます。D隊、二番隊隊長・アリギエリでございます』
『ん…』
『アラウディ様はなぜここに?…それに、その髪の色は?』
気になっていたらしい。アリギエリの言葉にユキもうんうんと頷く。
アラウディはあぁ…と呟いて、鬱陶しそうに黒の髪を引っ張る。
『いつもの髪は目立つからって…。あの子どもが』
『あぁ…。なるほど』
納得したようなアリギエリの声に、ユキも同じように頷く。
確かにアラウディは少しの明かりできらきらと輝いてしまうプラチナブロンドの持ち主だ。敵がどこから出てくるかわからない場所を移動するには目立つだろう。
そこまで考えて、ユキははたと気づいた。
ん? 子ども?
『自分はノヴィルーニオでもビルボでもありません! ボンゴレです!…とも声高には言えないんですけど…今は』
偵察に出た構成員がいると思われる方向から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
アラウディがすたすたと歩き出し、ユキも慌ててついていく。
『自分はボンゴレ門外顧問機関所属、アラウディ様付きの…』
少年らしい、澄んだ声だ。
D部隊の構成員に銃を突き付けられ、両手を上げる少年の姿が視界に入ったとき、ユキは思わず吹き出してしまった。
彼も、髪が黒い。
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