ミモザ フォー ミー? 1
流血表現注意!
何が、起こったというのだ…?
カッペッレェリーアはがたりと椅子を鳴らして立ち上がった。目の前で起こったことに、理解が追いついていなかったからだ。
ボンゴレプリーモと娼婦の情事を眺めて機嫌をよくしていた彼は、琥珀色の瞳を限界まで見開いていた。
娼婦の女が何かをして、そして言った。
《忠誠を誓います。ボンゴレプリーモ。…いいえ、ジョット》
『女!貴様何を言った!!』
指を突き出して叫ぶと、女が振り返り……消えた。
『がっ!!』
突然、左手に燃えるような痛みが走り、帽子屋は言葉にならない叫びを上げた。
一瞬真っ白になった視界に色彩が戻ると、すぐ目の前に長い黒髪の娼婦がいた。
その女が、自分の左手にナイフを突き立てたのだと理解したカッペッレェリーアは戦慄した。
まさか、あの一瞬で移動したというのか…。ただの女が、卑しい娼婦が!
女が太股に手をやる。いつの間にか足の付け根まで裂けていたドレスから、ホルスターのようなものが覗く。
取り出した銀食器《シルバー》のようなナイフを、女が手の中でくるんと回転させたかと思ったら、今度は右手に痛みが走り、カッペッレェリーアは今度こそ叫び声を上げた。
脂汗が滲む顔を歪めると、女と目が合った。
青い瞳が高温の炎のに燃えて見えて、こんなときだというのに、美しいと思ってしまった。
『貴方にこれを言ったところで仕方がないのはわかっているけど』
怒りを含んだ声音で女が呟くと、女の姿が唐突にぶれた。まるで歪んだ映像のようになったそれに、一瞬目を眇めた。
『貴方は私の部下を殺し、私の友人達に酷い仕打ちをした』
カッペッレェリーアの手を貫通して、壁に突き刺さったナイフから手を離し、女が真っ直ぐ自分を睨みつけた。
そして、何度かぶれた後、唐突に女の姿が変わっていった。
冷たい黒だった髪はあたたかみのある濃い茶色に、青い瞳も同じ色になり、顔からは西洋風の面影が消えていった。
濃い茶色の髪、同じ色の瞳、そして生粋のアジア人であることがわかる、美しい女。
『まさか、ボンゴレの…』
そこまで言ったところで、女は一瞬目を閉じ、そして凛と顔を上げた。
『貴方は私のジョットを傷つけた。そのことを、私は絶対に許さない』
美しい女は、怒りの表情を浮かべてさらに美しく見えた。
『ユキ……』
ソファに座ったまま、呆けたように口を動かしたボンゴレプリーモの顔は、帽子屋が見たことのない間抜けな表情だった。
ミモザ フォー ミー?
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