シェルピンク バビロン 1
シェルピンク バビロン
カッペッレェリーアの屋敷……実際はカッペッレェリーアの客である貴族が所有する屋敷は、少し古めかしい造りではあるが、豪華なものだった。
手足を鎖で繋がれたユキが真剣な眼差しで屋敷を見上げていると、見張りの男に憑依しているDが呆れたと言わんばかりの溜め息をつく。
『ユキ…堂々としずぎですよ。これから夜伽を強いられる女はそんな気合の入った顔はしません』
『…はぁーい』
できる限りの情報を得ようと、外観から部屋数を推測していたユキは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
『ヌフ。では、行きましょうか』
裏口の方へ歩き出すDを追いかけながら、ユキはもう一度灯りの少ない、暗くどんよりした屋敷を見上げる。
この屋敷のどこかに…ジョットが……。
* * *
『最上階のゲストルームですよ。ユキ』
『ちょ、重い!D、この人重い!』
裏口から屋敷へ入った二人は、待ち構えていたカッペッレェリーアの部下の男に迎えられた。
巧みにカッペッレェリーアの部屋の場所を聞き出したDは、男がカッペッレェリーアの側近であることを聞いた直後に、見張りの男の体から、側近の体へと憑依した。
Dが抜け出た見張りの男は、意識を失ったままユキの方へ倒れ込み、男の全体重を支える羽目になったユキは声は抑えつつもDに助けを求める。
『仕方ありませんねぇ。さっさと縛り上げてその辺の小部屋にでも放り込んでおきましょう』
『あのさ、その人にジョットの居場所を聞けばよかったんじゃないの?』
その人、とDを示すと、側近の姿をした彼は大仰に肩を竦めた。
『一介の見張りがボンゴレのボスの居場所を訊くなんて不自然でしょう』
『幻術をかけて聞き出す、とか』
見張りの男の大きな体を引き摺りながらユキは唇を尖らせるが、Dはあっさりと言い返す。
『我々はこの屋敷の内部をよく知りませんし、今は幻術をかけて必要な情報を引き出している時間はありません』
それに、とDは目を細めてユキを見る。黒髪に青い瞳、西洋寄りの顔立ちになったユキはドレスと化粧の甲斐あって、外見は高級娼婦に見える。
『ボンゴレの目的はカッペッレェリーアを仕留めること。プリーモのことばかり考えて、そちらのことが頭から抜けているようではいけませんよ』
ずばり言われて、ユキはソファの下からはみ出た見張りの男の足を蹴りいれながら、しゅんと眉を下げた。
『ごめんなさい…』
『ヌフフッ。わかればよいのです』
見つからないように手早く見張りの男を隠したユキとDは、最上階を目指して階段を上り始めた。
側近の男の姿のDに鎖を引かれるまま進んで行く道のりで、ユキはジョットのいる場所の手がかりが少しでも見つからないかと目を凝らしたが、下卑た笑みを浮かべるカッペッレェリーアの部下達と目が合っただけだった。
* * *
『ここです』
呟くように言われて、ユキは足を止めた。
カッペッレェリーアの自室がある階だからか、周りには誰もいなかったので、Dは薄く笑みを浮かべて今は黒く見えるユキの髪を撫でた。
カッペッレェリーアの側近の姿の方がDのキャラに近いな、となんとなく思った。
『ここからは任せましたよ、ユキ。面白いものを見せてくれること、期待していますよ』
『?』
どこか含んだような言葉の意味を問う間もなく、Dはカッペッレェリーアの自室のドアをノックした。
少しの間の後『どうぞ』という声が返ってくると、Dはふっと笑顔をユキに寄越してから、口元を引き締めてドアを開けた。
Dがすたすたと中に入り、ユキは力なくぶらりとさせた腕の鎖を引っ張られ、躓きながら入室した…ように見せた。
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