ブロンド イタリアン ドリーム 2
『ねぇローザさん。さっきの話、ユキ様は本気で言ったと思う?』
カルロッタが話題を変えた。
それはユキが眠りに着く前、ドレスを着た彼女に化粧の得意な女達が白粉を塗り頬や唇に色を差している時、ふとローザが口にした言葉がきっかけで起こった出来事だ。
《あたし、ここを出たら自分の店を持ちたいと思ってるんだ》
周りにいた女達にきょとんとした顔を向けられて、ローザは唇を尖らせた。
《なんだいその顔は。あたしがいたのはここと変わらないくらいたちの悪い娼館だったからね。もう戻りたくないんだよ》
《だから自分の店?安直ねぇ》
田舎街で捕まったという娘に呆れたように笑われて、ローザは言い返そうとしたが、それより先にその娘に笑顔を向けられた。
《だったらあたしも雇ってよ。捕まった時にたった一人の家族だった兄貴が殺されて…帰る家がないんだ》
一瞬悲しそうに揺れた瞳に、ローザは言葉を失う。
すると、周りにいた女達が口ぐちに声を上げる。
《私も、捕まった時に村を焼かれたの。ローザの店なら娼館だってかまわない!私も一緒に行かせて!》
《あたしも乗っからせておくれ。こんだけ生活を共にしてきたんだ、帰るところのないメンバーで、ひとつの城を持つってのも楽しそうじゃないか》
《私達も、加わらせていただけませんか?》
控え目なカルロッタの声に、ローザは驚いて詰め寄ったが、ローザが言葉を発する前に、少女は真剣な目を向けた。
《私達姉妹は働いたこともないし、財産もありませんが…一生懸命覚えますから、だから、どうか…》
母が殺され、父もたぶん生きてはない。
カルロッタは、そう言っていたではないか。
妹と二人、生きていかなければならない少女の、必死の願いだ。
床に胡坐をかいて座っていたローザは、頭をがしがしと掻いて波打った金髪を乱すと、自分の膝をぽんと打った。
《どいつもこいつも水臭いこと言ってんじゃあないよ!店をやるには労働力がいるんだ。行くとこない奴は問答無用で連れてくよ!だけど、店を開くまでが大変なんだから…》
《ねぇローザ》
《なんだい!人が話してんのに!》
後ろから掛かった声に遮られたローザは、苛立ったように振り返ると、化粧が終わったらしいユキが、余った布きれに紅を使って何か書いている。
伏せた睫毛は黒々と長く、娼婦の自分からすれば薄化粧だが、ユキの美しさを最大限に引き出しているように見えた。
やはり、ドレスだけがユキのイメージに合わない。
《お店を持つための資金って、これで足りるかな?》
無造作に差し出された布きれを受け取って、ローザは濃いピンク色で書かれた数字に目を落とす。
《なっ!!》
ローザとカルロッタと、一緒になって布きれを覗き込んだ女達が目を剥く。
布きれには法外な金額が記されていた。
借りるどころか、店と土地まで即金で買っても余裕がある金額だ。
カルロッタが震える手で布きれに触れる。
《ユキ様…この大金は…?》
カルロッタから見ても大金だと思うのか、とぼんやり考えていると、ユキは軽く苦笑した。
《私が今まで屋敷の雑用としてもらった給金が少し入ってるけど、ほとんどはキャバッローネセコーンド様からいただいたお見舞い金なの》
そう言われて納得したらしいカルロッタから、ユキの右手に怪我を負わせた人間がいて、そのファミリーのボスが見舞金として大金を贈ったのだろうと説明された。
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