恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


ホーリーグリーン マーチ 2



 朝利 雨月が総隊長を務めるU基地ユニットに、N基地ユニット襲撃の情報が入ったとき、いの一番に立ち上がったのは怪我の処置を終えたばかりのジョットだった。

 スーツに着替え、靴を履き、グローブをはめたジョットに、雨の守護者は心配そうな顔を、霧の守護者は呆れ顔をそれぞれ向けた。


『プリーモ、何もお前が行くことはないでござろう』

『貴方の中身は見かけ以上にずたぼろなんですよ』


 わかっているのですか?と眉を上げるDに、ジョットは頷いた。


『わかっている、D。だが報告によれば、このU基地付近から追い払われた敵がN基地になだれ込んでいるそうだからな…さすがのナックルも数でてこずるだろう』


 そこで言葉を切ったジョットは、まだグローブと同化する前のボンゴレリングを指先で撫で、ふと微笑んだ。


『Gと、アルと、それから捕まっているランポウのところに俺が無事だということを知らせないといけないからな』


 振り返り、ジョットは二人の守護者に笑顔を向けた。唇の端は紫色になっているし、顔に細かい傷があるものの、最大の不安要素が取り除かれた彼の笑顔は晴れやかだ。


『N基地の救援に行ってくる。そのついでに、派手に主張してくるさ』


 そう言って、ジョットが医療室を出ようとしたとき、慌てたようにU隊の構成員が駆け込んできた。

 構成員はジョットの前に跪き、手に持っていた封筒を掲げる。


『ボス。アラウディ様から伝言をお預かりして参りました』

『アルから!?』


 思ってもみなかった言葉に、ジョットも二人の守護者も目を剥いた。アラウディはまだ自分の指揮するA基地にいて、ジョットが無事だということを知らないだろうと思っていたからだ。

 U隊の構成員は、これは手紙を持ってきたアラウディ様の部下が話したことですが、と前置きして話し始める。

 確かな情報でジョットの無事を知ったアラウディは、A基地をキャバッローネから派遣されていた部隊に任せ、直属の部下と共にいかれ帽子屋の屋敷に向かったが、ジョット達はすでにU基地へと出発しており、入れ違いになった…という内容だった。

 さすが諜報部隊というところですかね、と苦笑いを浮かべるDにジョットが同じく苦笑いを返すと、それで、と構成員は話を再開する。


『カッペッレェリーアの屋敷の隠し部屋で、ノヴィルーニオのものと思われる資料が多数出てきましたので、アラウディ様はそちらを調べてから合流されるようです』

『そうか…わかった。ご苦労だったな』

 
 構成員が礼をとって退出した後、ジョットはアラウディからの伝言が入った封筒を開いた。

 あのアラウディが自分に手紙を寄越したうえ、後で合流すると宣言してくるなんて。

 くす、と笑って入っていたカードを取り出す。厚みのあるしっかりしたカードに、けぶるような紫色のインクで、たった一言。





【君はユキに何をさせているんだい?】



 

 ぞく、と背中が冷えた。

 思わず周りを見回してしまったジョットは、眉を下げて頭をかいた。アルめ…確かな情報とか言って、ユキに会ったんじゃないか。

 飾りのない、淡々としたアラウディらしい文字を見るだけで、彼が何を言いたいのかわかる。機嫌が悪い。


『合流は目的があってのことらしい。…まぁ、甘んじて受けるさ』

『?』


 首を傾げる雨月に封筒ごとカードを渡して、ジョットは医務室から出るため扉に手をかけた。早くN基地に行ってやらないと。

 Dが雨月に、何と書いてあるんですか?と聞いているのが背中に聞こえた。

 扉を閉める直前、雨月の苦笑が耳に届いた。








『これは日本風に言って…【首を洗って待っていろ】でござるな』








 そうなんだろうな……きっと。