恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


インディゴ プレリュード 2


『ですが、その案も悪くないのではないですか?』

『え…?』


 ユキがびっくりしたように目を大きくする。それを見て、にっこりと笑顔を向けてやる。


『せっかく貴女がカッペッレェリーアの寝室に公然と行くことができる機会…それを逃す理由はないでしょう』

『えと、D…』

『今の貴女だったらベッドに入ってしまえば隙を見つけて奴を殺すことができるでしょうし』

『あの…』

『その間に私が部隊動かして女達を救出します』

『D』

『女達を救出した後には貴女の援護に行きます。プリーモが生きていたら、その時に助けることも…』

『Dッ!!』

『ッ! …ユキ』


 大きな声でDを呼び、突然地面に額を擦りつけたユキに驚く。

 正座をし、手を揃えて頭を下げるユキの、濃い茶色の髪がぱさりと流れる。

 思わぬユキの行動に驚いていると、強張った声が静かな空間に響く。


『覚悟は、あります。できています』


 ユキの声は震えてはいなかったが、いつもの柔らかい調子ではなく、硬かった。

 思わず伏せた頭に手を伸ばしかけて、止めた。


『私は人を殺したことがありません。殺そうと思って敵と対峙したことがありません』


 ユキの戦闘スキルが想像以上に高くなっていたことが理由だろう。彼女は一人で行動している間、命のやり取りをするような強敵に会ったことがないのだろう。


『どんなに覚悟していてもカッペッレェリーアの寝室に侍って、冷静でいられなくなるかもしれない。私は…確実にジョットを助けたいんです』


 地面にへばりついてしまいそうなくらい、ユキは一層頭を下げた。





『ボンゴレのために、ボスを…ジョットを失うわけにはいきません。霧の守護者、D・スペード…私に力を貸してください』





 ボンゴレのため…ですか。



 肩を揺すって顔を上げるよう促すと、まっすぐな視線に射抜かれた気がした。

 思わず溜め息が出る。

 まったく、成長したのは認めますが…変なところが鈍感で、強情なところは変わらない。


『ヌフッ。さすがユキですね。…私相手のものの言い方をよくわかっている』


 そう言って微笑むと、ユキの強張った表情がだんだんと弛緩していく。

 【ボンゴレの風】に土下座までされてしまっては、これ以上意地悪をするわけにはいきませんね。

 ユキも、もう少し気づけばいいものを…。





 貴女がいかれ帽子屋の寝室に侍ることを許すボンゴレが、この世に存在するわけがないのに。





『貴女の考えた、プランAとやらを実行に移しましょう。時間がないので計画の穴は後から詰めますが…ユキ、こちらに来なさい』

『え?もうやるの?』


 膝立ちになって近づいてくるユキの顎に手をかけ、上を向かせてその顔を覗き込む。


『当然です。ここに来てからだいぶ時間が経っています。すぐにでも目覚めなくては』

『ん。痛くはないよね?』

『ヌフフッ。もちろんです。…とびっきり優しくしますよ』


 覗きこんだマホガニーの瞳に、自分の顔が映る。

 映った自分の顔がどんどんアップになり、右目のスペードのマークが妖しく光るのが見えるころには、Dは自分の意識がゆっくりと移動するのを感じていた。








(ゆっくりと覚醒する。戦いの待つ現実世界へと)








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