恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


サハラ フォー ユー! 2



『ボスが、捕まっただなんて……』


 部屋の隅で膝を抱えていた部下が、僅かにしゃくりあげた。ランポウの部下には若い者が多いが、その中でも特に若い少年だった。

 きっとジョットと自分が捕まっていることで、ボンゴレ側は攻撃をしあぐねているのだろう。そう思うと、体の痛みとは違うものが、胸をしくしくと蝕んだ。


『ボスは、大丈夫…。ここでボスを殺すような、馬鹿をするはずないんだもの、ね…』


 自分以上の拷問を受けている可能性は否めないが、という言葉は呑み込んで笑いかける。

 すると部下は顔を上げたが、悲壮な表情は和らいではいなかった。


『ユキ様は、ご無事でしょうか…?』


 答えを求めているわけではないのだろう。ユキの行方は、少なくともカッペッレェリーア側にもわからない。

 ユキがボンゴレリングを持っている可能性が高い以上、彼女がボンゴレに保護されているなら動きがあるはずだ。


『ユキ様が、もし…もしっ……』

『お前っ!滅多なことを口にするものじゃない!』


 比較的年齢が高い、L部隊の副隊長が咎める。

 だが部下はますます顔を歪める。

 彼の気持ちは、わからなくない。ユキは強くなったが、実戦経験はなく、マフィアとしての作戦はこれが初めてだ。

 作戦に参加とはいえ、危険な目に合わせるつもりがジョットになかったこともわかっていた。



 それなのに、彼女は今…生死さえわからない。

 でも……





『ユキなら、だいじょーぶだものね』





 心身ともにボロボロだったが、はっきりとした声が出た。

 言葉にしてみると、腹の奥があたたかくなり、力が湧いてきた。

 ボスも、ユキも、逃がした部下達も…みんな……。


『大丈夫だものね。何があっても、ユキも、皆もきっと大丈夫』


 ユキはきっと生きている。

 ボスも無事だし、守護者だって無事だ。

 そして、俺だって生きている。





『少しでも寝て、体力を回復しておくんだものね。そのときがくれば、嫌でも動かなきゃならないんだものね』





 ボス、ユキ、皆……。



 この声が届けばいいのに。

 俺は無事だから、死なないから、それを信じていて。

 俺は皆が無事だと、信じているよ。






 この気持ちを、風に乗せて贈るから。








 ねぇ、きっと届くよね? ユキ……。








(風は彼女の味方だから)








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