恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


ラズベリー メリー アンバースディ 3


(どうかしている)


 ジョットの手が膝立ちになったアリーチェのドレスの上を滑る。

 太股に添えられた手が徐々にドレスを捲り上げていくのを、どこか他人事のようにジョットは眺める。



 ユキ、ユキ…。

 頭の中には愛しい彼女しかいない。

 それなのに、右手はアリーチェの体を支え、左手は細いが柔らかい脚に直接触れている。

 頭と体が分離してしまったようだ、とぼんやり思う。

 俺にはユキしかいない。ユキしかいらない。ユキだけが欲しい。

 そう、頭の中では狂ったようにユキばかり求めているというのに、体は違った。

 頬に手を触れられても、髪の毛を掻き回すように頭を撫でられても、嫌ではない。

 時折、紅で彩られた唇から洩れる、吐息のような掠れた声は、甘さを持って耳を擽る。

 見下ろされる視線も、目の前で呼吸のため上下する胸も、そこから僅かに香る甘さも、すべてが心地良い。


 頭の中にユキがいれば、他の女でも抱けるのか…とジョットは自嘲する。

 悲しいことに、触れた感覚がユキと違うなどと言えるほど、ユキに触れたことはない。


 これは罰なのかと、ジョットは目を閉じた。

 こんな形でしか誰かを救うことができない己への、罰。

 アリーチェを抱けば、もうユキに触れることはできない。そんなことができるわけがない。だが、従わなければカッペッレェリーアは何をするかわからない。ユキを捕らえているという言葉が真実なら、今度こそこのいかれ帽子屋は彼女を傷つけるかもしれない。



(連れてこなければ、よかったな…)



 ジョットは初めて後悔した。

 ユキを安全な屋敷へ置いてきていれば…。

 否、せめて島の中で、誰か守護者の保護下にあると確信できていれば。





 ユキへの気持ちを裏切る前に、この女を殺すことができたのに…。





『ストップ』

『!!』


 夢中でアリーチェの脚をまさぐっていたジョットの手。

 その爪の先がこつ、と何かに触れたとき、アリーチェが耳元で囁き、ジョットはびくりと手を止めた。

 膝の上に重みを感じて目を開けると、ジョットの膝の上に乗ったアリーチェの顔が目の前にあった。

 ふと視線を落とすと、自分が捲り上げたドレスから、アリーチェの白い右脚が大部分見えていて思わず目を逸らす。

 短く息を吐いたアリーチェの顔を見ると、ふわりと微笑まれる。



 その笑い方は、苦しくなるほどユキにそっくりだった。



 アリーチェが胸元に両手をかけると、すぐにびり、びびび、と布が破れる音が鳴り、ただでさえ半分ほど見えていた胸とコルセットがあらわになる。

 凝視することが躊躇われて、再び目を逸らしたジョットの右手が宙に浮く。

 アリーチェの手に重ねられた自分の手を見て、ジョットは目を剥いた。

 中指の先には、丸いものを摘まむアリーチェの細い指。



 声が出なかった。あまりの驚きで。

 中央の空色の石の周りには、己が最も信頼する守護者達の色を表した石。





 ボンゴレリング……。





『ッ…なぜ……?』


 喉につっかえたような声が出た。

 真正面から見つめたアリーチェが、笑顔を浮かべる。

 泣き笑いでも、苦笑でも、儚げでもない。



 輝くような、笑顔





『忠誠を誓います。ボンゴレプリーモ。…いいえ、ジョット』





 中指に納まった指輪は、混乱していた心をひどく安心させた。








(御伽噺のお姫様ではなく、現実のボスを救うのは……)






next ミモザ フォー ミー?