恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


ウルトラマリン イントゥイション 3


 なぜそんなに機嫌がいい?と眉を寄せる。

 嫌な予感が背中を水のように伝った。敵の機嫌がよくて、それが自分にとってよいことであるはずがない。


『嗚呼こんばんは、ボンゴレプリーモ。本日はとても素晴らしいものを持って参りましたよ』

『貴様がここにきた時点で、俺にとって素晴らしいものなどない』


 低い声で一蹴するジョットに、カッペッレェリーアはくすくす微笑んだ。

 この鎖がなければ、即座に軍人もどきの帽子を奪い取って踏みつけてやるのに、と苦い表情を浮かべる。


 投げ出すようにソファに体を沈めるジョットを見て、帽子屋は心から楽しそうに微笑んだ。





『ボンゴレプリーモ、女を抱きましょう』

『なっ!?』


 唐突な言葉に、ジョットは目を剥いた。


 今この男はなんと言った?

 俺に、女を…?


『我々の手持ちの中で最上の女ですよ』

『貴様ッ。ふざけ…』


 いかれた帽子屋を罵倒しかけて、はっと目を見開いた。唇を噛むと、ぶちりと音が鳴り、血の味が口内に広がった。





 これが、新しい趣向というわけか。

 どうすればいい。どうすれば、切り抜けられる。




『嗚呼、来なさい。アリーチェ』

『あ……』


 カッペッレェリーアが腕を引くと、開いたドアの陰から声が聞こえた。

 耳に届いた小さな声にびくりとする。



 ユキの声に、似ていた。



『…ッ』

『さぁアリーチェ、ボンゴレプリーモにご挨拶なさい』

『はい…、カッペッレェリーア様…』


 さらりと流れる長い黒髪、驚いたように見開かれた目の中心には青い瞳、白い近い薄いピンク色のサテンドレスはまるで娼婦のようだ。

 イタリア人とアジア人の間のような美しい顔に笑みはなく、鎖に繋がれたジョットを見て悲痛な表情を浮かべている。

 ぐいと腕を引かれてカッペッレェリーアの傍に立たされた女は、一度きつく目を閉じた後、顔を上げてまっすぐにジョットを見つめた。





『はじめまして……ボンゴレ、プリーモ様…』





 目を逸らすことはできなかった。

 目の前の女が、とても辛そうな表情を浮かべているにもかかわらず、自分から目を離そうとしないから。





 ユキ。





 焦がれて、焦がれて、渇いていく。





 ユキを求めたのは、この前兆だったのだろうか。





 目の前にいるのが、ユキだったらよかったのに。








(そう望んでしまう俺は、どうかしている)








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