ウルトラマリン イントゥイション 2
ユキに…会いたい……。
唐突に、そう思ったジョットは、ベッドだと言われても納得できそうな広さのソファに繋がれた両手と両足を、忌々しげに眺めた。
もう長い間会っていないような気がする。実際は3、4日だというのに。
胸の奥が、掴まれたように苦しくなる。押さえると、鎖がじゃらりと音を立てた。
封じ込めたつもりでいたのにな、とジョットは苦笑する。
ユキの生存を確認して、自分もここから脱出して、捕虜となったランポウを救い、味方に自分の無事を知らせて、女達を救い、あのいかれ帽子屋を潰す。
それをやらなければいけないのは自分だ。捕まっていようが、拷問を受けようが、自分はボンゴレのボスだ。
全てを終わらせるまでは、ただの欲望は抑えこんでおくつもりだった。
ただの、欲望だ。
ユキに会いたい。それは心配とは別のものだった。
柔らかい濃茶の髪に触れて、マホガニーの瞳に自分を映して、ほんの少しだけ荒れている手に触れて…。
満たして欲しかった。
穴が空いてしまった心を、いつものふわりとした笑顔を向けてもらって、幸せで満たして欲しかった。
あの笑顔を見るだけで、幸せになれる。
『いや、笑顔じゃなくてもいい、かな…』
急な雨で洗濯がやり直しになったとしょぼんとしている顔。
武器の修行で、どうしても雨月から一本が取れないと、悔しそうに唇を噛んでいる顔。
デザートを全員分食べられたと、ランポウと頬を引っ張り合って喧嘩している顔。
傷ついて、悲しんでいなければいい。
ユキの心が幸せなら、どんな顔だって俺を幸せにしてくれる。
『これが、恋……だよな』
ボンゴレリングがはまっていない右手を額の上に載せて呟く。
この島に来る前日、彼女に自分の望みを口にした。
《恋だったら…いいのにな……》
自分は恋をしていて、同じ気持ちを彼女に望んだ。
『ユキは、よくわかってなかったみたいだったな…』
苦笑する。ユキが変なところ鈍感なのはわかっていたはずなのに、中途半端なことをしたものだ。
はっきり言わなければいけない。
相手が鈍感だとかそういう問題じゃなくて。
伝えるべきことは、はっきりと伝えなくてはならない。
ユキと絡ませた小指を見上げる。
約束をした。次に会ったときに二人で話すという約束だ。
『その時に、きっと…』
ユキの笑顔を浮かべて、目を閉じる。
唐突に湧き上がったユキへの想い。
今は誰もいないとはいえ、表に出さないように隠してきたというのに、なぜこんな突然…溢れるように。
そこまで考えたところで、突然響いたノックの音に身構える。
返事などしない。それがわかっていたかのように、特に気にした様子もなくドアが開かれた。
控えめな靴音と共に現れたのは、スーツをきっちりと着こなした若い男。
いつも少し怯えたような目で、ジョットが拷問を受ける様子を見ていた、カッペッレェリーアの側近だ。
ソファの上で体を起こしたジョットと視線が合った側近の男が、一瞬にやりと口元を歪めたのに驚いた。むかっ腹が立つより、男がそのような笑い方をした驚きの方が大きかった。
訝るような視線を側近の男に向けたものの、すぐ後ろからいかれ帽子屋・カッペッレェリーアが入室してきたことで止めた。
どういった趣味なのか、軍服のような服を着て、軍人が被るような帽子を被っている。
確か昼間は違う服と帽子を身に着けていたはずだが気にはしない。この男は一日に何回も服と帽子を替える。
カッペッレェリーアはくすりと微笑んで、大仰に両腕を広げた。
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