恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


シェルピンク バビロン 2


 カッペッレェリーアが自室として使っている部屋は、びっくりするほど豪華だった。

 ユキはいきなり部屋の明るさが増したことに驚いて、目をぱちぱちさせる。

 側近の姿をしたDがゆっくりと礼を取るのを見て、視線を向けると、ソファに男が座っていた。


 一瞬驚いた。軍人が座っているかと思ったからだ。

 だが、ユキがそう思ったのも無理はなかった。派手な細工に、ベルベットを張ったソファに座っている男は、軍服に近い服を着て、きっちりと固めたプラチナブロンドの上に軍人が被るような帽子を載せていた。





 ノヴィルーニオファミリー幹部、通称いかれ帽子屋・カッペッレェリーア。





 聞いていたよりも若く見える、とユキは思った。

 プラチナブロンドを見て、憮然とする最強の守護者の顔が頭に浮かんだが、カッペッレェリーアは最強の守護者は持っていない琥珀色の瞳を細め、笑みを浮かべた。

 わざわざソファから立ち上がったカッペッレェリーアは、大袈裟に両手を広げてユキとDのところまで歩み寄ってきた。


『嗚呼、遅かったですね。寝室に行っても誰もベッドに繋がれていないので、何かあったのかと心配したのですよ』


 申し訳ありません、と詫びるDの横で、ユキは嫌悪の感情を吐き出したいのを堪え、唇を噛んで俯いた。

 すると突然、乱暴ではないが有無を言わさぬ動きで顎の下に手を添えられ、上を向かされた。

 驚きに見開かれたユキの目に、カッペッレェリーアの顔がアップで映る。

 長い睫毛に細面の端正な顔立ち、軍服のような服を着ているにも関わらず、その表情は柔らかい。


『アジア人とイタリア人とのハーフ、と聞いていましたが…。なるほど、美しいですね』


 目の前の男がジョットを拘束し、女達をいいように弄んでいたことを思い出し、手を払いたい衝動に駆られたが、側近の姿のDが我慢しなさいと言わんばかりにユキの腕の鎖を引っ張っていた。


『っ』


 目の前にある帽子屋の顔を見つめ返す。


 大丈夫。きっと上手くいく。Dだっている。

 計画通りやれば、きっと…


『カッペッレェリーア様』


 側近の姿のDが静かに声をかけると、ユキの顎からカッペッレェリーアの手が離れた。

 カッペッレェリーアの顔がDに向けられたのを幸いに、ユキはローザを含めカッペッレェリーアの相手をさせられた女達の言葉を思い返す。


 夜伽の際には、片足だけがベッドに繋がれ、他は外されると聞いている。

 両手と片足が自由になるなら、なんとかなる。








『今宵はこの娘に、ボンゴレプリーモの相手をさせてはいかがでしょう?』

『……ほう』

『!!!?』


 思わず叫びそうになったのをなんとか堪えたユキは、目を限界まで見開いてDを見上げた。


 だが側近の姿の霧の守護者は、薄く笑みを浮かべたまま隣を見ようとはしなかった。








《面白いものを見せてくれること、期待していますよ》








 やられた。








(甘いようで、厳しい人)








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