マラカイトグリーン デュランダル 2
二日前のことだった。
《敵襲―ッ!敵襲です!》
本隊から少し離れた場所に配置されていた見張りからの報告に、L基地ユニットは色めきたった。
ノヴィルーニオにもうこの場所がばれたのかと、信じられない気持ちで聞いていたボンゴレ、キャバッローネの戦闘員達は、続く言葉に愕然となった。
《ノヴィルーニオではありません!隣の基地からの襲撃…ビルボの離反です!》
基地内は騒然となった。
L基地は武器の搬入の順番が一番最後になっていて、まだ半分の武器も揃っていなかった。
それをわかっていて奇襲をかけてきたのだと、頭の隅でぼんやり思った時、銃声と怒号、味方の叫ぶ声が耳に響いた。
《俺が引きつける!全員逃げるんだものね!》
若い青年の声。このL地点の部隊長の声。ランポウ様。
この部隊長…雷の守護者が嫌いだった。戦闘能力は高いかもしれないが、仕事をさぼり、ボスや他の守護者様に甘えているという話だったから。
父親が地主で、その立場を利用し、領民を虐げているとまではいわないにしろ、私腹を肥やしているのはわかっていた。
だが、それは住民を守るというボンゴレの意思に反するのではないかと、腹が煮えた。いくらランポウ様がボンゴレとは関係ない、自身の資産を使って領民のフォローをしているからといって、悪地主を野放しにするのはおかしいと、思った。
一度パーティの場でG様に進言したところ、余計なことを言うなと一蹴された。
確かにボンゴレに影響が出れば、ボスは動くだろう。それを決めるのはボスで、一部下である自分があれこれ言うのは出過ぎた真似だった。
それでも、自分の父親の悪事ひとつ片付けられない者が、守護者を名乗ることに憤りを感じていた。
そして、今回の作戦で、ランポウ様の部隊に配属されたことが、ショックだった。今回の捕り物で手柄を立てて、尊敬するG様やリナルド様に認めてもらいたいと、そう思っていたのに。
なのに俺は逃げた。ランポウ様の言葉通りに、一目散に逃げてしまった。
リナルド様から、L基地ユニットの武器庫の、責任者を任されたのに。
どんなに気に食わなくても、ランポウ様を守りに走らなくてはいけなかった。
それができなくても、ボンゴレの武器が敵に渡らないように、手を打つべきだった。
夢中で逃げて、ビルボやノヴィルーニオファミリーの追撃をなんとか退けた。ビルボがノヴィルーニオファミリーに寝返ったことは、このときわかったことだ。
十数人の仲間と森の中で落ち着いてから、後悔の念が頭の中で無限に回っている。
最後に合流した仲間から、ランポウ様が捕まったという話を聞いて、愕然とした。
そして、その時唐突に理解したのだ。
自分はボンゴレなのだ。
それなのに、ボンゴレと関係のないランポウ様の父親のことをあげつらって、勝手に苛ついて、勝手に…ランポウ様の器をわかった気でいた。
ボスが雷の守護者に据えた方だというのに、囮になってくれたランポウ様を…これ幸いとあっさり見捨てた。
ボンゴレなのに、守護者様を守ろうともしなかった。
ランポウ様は、真っ先に部下である自分達を逃がそうとしてくれたのに。
守って、くれたのに。
『馬鹿…俺、馬鹿…』
もう何度目かわからない自嘲が口から零れる。
森の中に潜伏して二日…どうすればいいのかわからなかった。
武器も食料もほとんど持ち出せず、ほぼ丸腰の男が十数名。地形は頭に叩き込んであったから、今いる場所がどの基地ユニットからも離れた場所にあるということだけはわかっていた。
今いる中では、自分が一番、立場が上の人間であるにも関わらず、何も言うことができない。
他の基地に行くことも、ランポウ様を助けに行くことも、実行不可能にしか思えなくて口に出せない。
怪我人もいる。このまま助けを待つのが一番いいのかもしれない。
そう思うのに、腑抜けと思われそうでそれを口に出すことすらできず黙っている。
『俺…最悪の馬鹿……』
たった十数人の指揮も取れない人間が、守護者様を馬鹿にしていたなんて。
雷でも落ちればいいのに。
* * *
『うー…なんか気持ち悪い…』
『最初はそうなるでしょうね。まぁ、ユキは幻術に耐性がある方だと思いますよ』
見張りの男が、その武骨な手からは考えられない滑らかな動きで、ユキの背中を撫でている。
今までのぶっきらぼうな口調ではない丁寧な言葉遣いに、部屋の中の女達はわけがわからずただ口を開けて二人を見ていた。
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