ダリアパープル シックスセンス? 1
ダリアパープル シックスセンス?
ノックの返事も待たずに部屋に入ると、足に包帯を巻いたユキが手にナイフとオレンジを持ったままぽかんとしてジョットを見上げていた。
つかつかと歩み寄り、ベッドの上に座ると、軽くスプリングが軋む。
「っと…怪我の具合はどうだ?」
「あ、もう大丈夫です。ちゃんと手当てしてもらったし」
「そうか……」
勢いでこの部屋に来てしまったが、何から言うべきなのか考えていなかった。
それでも、不思議そうに自分を見ているユキに、何か言葉をかけなくてはと思う。
だが、彼女に何を言ってやれる?
家族も、友人も、帰る家も、国も、文字通りなにもかも失った彼女に、自分は何を言うべきなのか。
少しでも気持ちが伝わるようにと、ジョットは真っ直ぐにユキを見つめた。
「【Famiglia Vongola《ボンゴレファミリー》】。俺たちの、ファミリーの名前だ」
「やっぱり、マフィア…?」
頷くと、ユキの大きな目が不安に揺れる。
遠い未来に、マフィアはまだ存在するらしい。いいイメージはなさそうだ。
「俺は、そのボンゴレファミリーのボスだ」
ひゅっ、とユキが息を飲んだのがわかった。
ボスであることはユキを安心させたのか、それとも不安にさせたのか、ジョットにはわからなかった。
《猫の子じゃねーんだぞ――――》
Gの言葉が頭の中に浮かんで、消えた。
猫の子じゃない。そんなことはわかっている。
だから、相応の覚悟を持って、彼女に選択肢を提示する。
「ここはお前がいた時代じゃないらしい。それでも日本に帰りたいなら、責任を持って送らせる」
現在の西暦と、雨月から聞いた今の日本の様子を簡単に伝えると、ユキは強張った顔で目を伏せた。
ユキにとって現在の日本など、ただ言語が通じるだけで、未開の地と変わりないだろう。
それはここイタリアとも大差はないようにジョットには思えた。
「俺たちはマフィアで、今日みたいな危険は日常茶飯事と言っていい。けれど、お前がここにいたいなら、俺が守る。危険な目に遭わせないし、不自由はさせないと約束する」
静かに手を差し出すと、長い、とても長い沈黙の後に、震える手が、ゆっくりと重ねられた。
平等な選択肢ではなかった。それをユキがわかっていたかはわからない。
ただ、ジョットの心のうちにあったのは、自分はこの手を離すべきではない。
その直感だけだった。
(手、震えてる)
(ご…ごめんなさい。ジョットさん、あのっ)
(ジョットでいい。ジョットと、呼んで欲しい…)
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