ボトルグリーン フレグランス 2
日本の大学生であること。大学構内の階段で転んで、気が付いたら戦場にいたこと。19XX年生まれの18歳であること。
口を挟まずに聞けと言い含めてあったが、実際話を聞いてジョットを含め全員、口を挟む余裕もないほど驚いていた。
「何度思い返しても、大学からここで目を覚ますまでの間の記憶はありません。だからどうやってきたのか……あの、変な匂いがしませんか?」
言葉を切って眉を寄せるユキに、全員がびくりと反応した。
雨月が人好きのする笑みを浮かべる。
「気づかなかったでござるな。どんな匂いで?」
「いえ…花のようないい匂いがずっとしてたんですけど、その中で微かに焦げ臭いような、お酒のような…」
気のせいかもしれませんね、と笑うユキに、少し休めと言い置いて、ジョットは無言の守護者達を連れて会議に使っていた部屋に戻った。
* * *
全員が席に着き、一斉にDを見ると、Dは軽く肩を竦めた。
『まさか幻術に気付かれるとは思いませんでしたよ。一般人に匂いだけとはいえ、察知されたことなんてなかったんですがねぇ』
会議の結果、ユキが本音を話しやすくなる幻術をDがかけることになっていた。
ユキの様子からして必要ないとジョットは思っていたが、体に負担をかけるものではないと言われ、渋々受け入れたのだ。
『タイムトラベルってことだよね…?』
今まで黙っていたランポウが、恐る恐るといった感じで口を開く。誰もが思っていながら、口に出せなかった言葉だ。
ナックルとGが、眉間に深く皺を寄せて呟く。
『彼女が話している間、ずっと声の調子や目の動き、しぐさを観察していたが、虚言のようには思えなかった』
『あれで頭が悪そうな女だったら、イカレてると考えるんだけどな』
タイムトラベルを実証できるものなどいない。
ユキ自身も不可能だろう。自ら起こしたわけではないのだから。
だとするとユキには、家族も、知り合いも、帰る場所も、何もないことになる。
『彼女を飼うつもりなら私にください。なかなかの美人ですし、興味深い。是非手元に置いておきたい』
笑みを浮かべて言うDを、アラウディがぎろりと睨み付けた。
『何勝手なこと言ってるんだい。君に渡すくらいなら僕が持って帰るよ』
『お前らなぁ…猫の子じゃねーんだぞ』
呆れたような視線をGが2人に向けるより先に、ジョットが椅子を鳴らして立ち上がる。
驚く守護者達に目もくれず部屋を出ていき、ユキの部屋へと向かう。
頭の中は、霞がかったようにぼやけていた。
(ヌフフッ、先を越されましたかね)
(お前らなぁ、悪ふざけはよせ)
(おや。私は本気なんですがね)
(僕だって冗談で言ったわけじゃないよ)
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