グラファイト バン バン 2
なんでこんなことになってんの…?
ユキは土まみれになったワンピースで、血が滲む自分の手を拭った。
大学の階段で転んだはずだった。食堂へ行こうとしていた。
その時頭を打った。
そこまでは覚えている。
目が覚めると、土埃が舞う地面に横たわっていた。
頭がくらくらして、一瞬ぼうっとしていたが、耳を劈くような発砲音と共に自分の目の前に倒れたものを見て、ユキは我に返った。
眉間に穴が開いた男。
目をかっと見開き、絶命しているのが一目瞭然だった。
悲鳴が喉元までせり上がってきたが、立て続けに響く発砲音と、飛び交う怒声が聞こえ、なんとか堪えた。
立ち上がり、周りを見回そうとした途端、右足のすぐ傍の地面が弾けた。
弾が飛んできたのだ、と認識すると同時に走り出したが、脳が焦っているほど体はついてこず、転んでしまう。
何度か周りの地面が弾け、歯を食いしばってその場を離れ細い路地に逃げ込んで今に至る。
「ここ、どこよ…」
当然の疑問だったが、それに答える者は誰もいなかった。
周りが土煙だらけなのが幸いしたのか、発砲音が遠くなった気がして安堵したユキは、改めて周りを見渡した。
土煙と発砲音と怒声が飛び交っている以外は、普通の、少しレトロな街並みに見えた。
しかし、自分が知る大学周辺のどの街並みとも違う場所だ。
そして、ユキにはもう一つ気になっていることがあった。
「やっぱり、イタリア語だ…」
視界に入る限りの店の看板と、聞こえる怒声は、イタリア語のように思えた。
ここはイタリアなんだろうか。
そうだとしても、なぜイタリアの戦場に自分はいるのだろう。
階段から落ちて気を失ったのだとしても、イタリアまでどうやってきたというのか。
映画の撮影という期待が一瞬浮かんだが、絶命した男の顔に打ち消される。
『Eureka!! ―――Vongola!――――!!』
すぐ近くで聞こえた怒声に振り向くと、黒いスーツ姿の男が数人、何か叫びながらユキの方に向かって走ってきていた。
短く悲鳴を上げて走ると、顔の横を銃弾が通過したのがわかった。
心臓が早鐘を打ち、耳元で鳴っている気がした。
逃げなければ、逃げなければ……死ぬ!
刹那、ふくらはぎが燃えるように熱くなり、地面に倒れ込む。
倒れた瞬間襲ってきた痛みに目を向けると、銃弾がかすったらしく、ふくらはぎに斜めに赤い線が走っていた。
遠くで3つの銃口が自分を捉えているのを見たとき、ユキは自分の生の終わりを確信した。
瞬間、ユキの横をオレンジ色の何かが通り過ぎた。
それが何であるかわかったのは、自分に銃口を向けていた3人の男が、焼け焦げて吹き飛んだ後だった。
音がしなかったように感じたのは、あまりに大きな音を聴きすぎて、聴覚がおかしくなっていたからかもしれない。
振り返ると、少し離れた場所にスーツ姿の男が3人立っていた。
中央に立つ金髪の青年の両手と額に、ぼんやりとした、だが確かな明るいものが灯っている。
あれは……炎…?
(教えて。ここはどこで、私はどうなるの?)
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