10万企画・記念小説 | ナノ


おまけ


 嵐の守護者が雨の守護者を連れて本部に戻った数週間後に、ボンゴレの大規模戦争は終結した。

 その三ヶ月後、本部に一通の請求書が届けられた。

 差出人は、管轄地でもない名前も知らない街の町長。

 内訳の半分以上が迷惑料と記載されている請求書には、なぜか【スープ材料費】なんて費目もあった。

 その法外な金額に、悪ふざけだ新手の詐欺だボンゴレ相手にいい度胸だと騒ぐ経理部を一蹴したのが、嵐の守護者でありボスの右腕であるGだった。


『こいつは、俺が払う』


 説明を求める経理部に、何も言わない右腕を、ボスは不思議そうに見たものの、すぐに表情を和らげた。


『お前がそう言うなら、好きにすればいい』


 そう言うボスに、Gは珍しく眉を下げて礼を言い、経理部を出て行った。








 その5分後、本部のボスと守護者の執務室がある階に、Gの大声が響き渡った。





『あのスープ、トマト使ってねぇのかよ!』








(あの味をまた思い出して、口を押さえた)





* * *





『ねぇ…かあさん』


 少し掠れた、高い声に呼ばれ、リリアーナは振り返った。熱を出して倒れたばかりの息子に、水を飲ませようとキッチンに顔を向けたタイミングだった。

 浮かせかけた腰を下ろし、椅子に座り直す。

 ベッドに横たわる息子に笑いかけると、熱の所為で潤んだ灰色の瞳が僅かに細められた。


『どうしたの? リナくん』


 額からずり落ちそうになっていた濡れタオルを、元に戻す。

 リナルドはぼうっとした表情でリリアーナを見上げた。


『赤い目のひとが、いたんだ…』

『え?』


 目を瞬かせたリリアーナの手に、幼い息子の熱い手がのせられた。

 リナルドは、熱で朦朧としていたが、それでもあどけない表情には必死さがあった。

 リリアーナは、微笑んでリナルドの柔らかい黒髪を撫でる。


『パンを食べて、それから倒れる直前に…その赤い目の人が見えたのね?』


 笑顔でそう問うと、リナルドはこくりと小さく頷いた。


『赤い目のひと…顔に、絵がかいてあったの…』

『絵?』


 絵、とはなんだろう。ペイントか、刺青か…傷なんてこともあり得る。

 リリアーナは眉を寄せた。大道芸人などならいいが、もしその赤い目の人物の顔にあるのが刺青や傷だとしたら、不安だ。

 リナルドは、予言者の能力に目覚めた。まだ幼い息子が見たのは未来だろう。

 いつかわからない未来に、息子が出会う…赤い目の人物。


『あのひと…どこにいるのかな?』

『さぁ、どこにいるのかしらね』

『あいたいな』


 リナルドはへにゃりと笑った。どちらかというとしっかりしていて、あまり笑わない子どもだが、この笑顔は自分に似ている、とリリアーナは嬉しくなる。


『かあさんもきっと好きになるよ。すごくキレイな目だったんだ』

『まぁそうなの? でもリナくんのお嫁さん候補だとしたら、すぐには好きになれないわ』


 悪戯っぽく言うと、リナルドはきょとんとした顔をした。


『そういえば…男のひとと女のひと、どっちなんだろう…?』


 目ばかり見てたから、と首を傾げるリナルドに、思わず吹き出した。

 この子が心を奪われてしまうほど、綺麗な赤の瞳。








 本当に、女の子だったら好きになれないかも。





 話し疲れて眠ってしまったリナルドの頭を撫でて、リリアーナはくすりと微笑んだ。





 これはリナルドが忘れてしまった、リリアーナだけが知っている…初めての予言の話。








(だから貴方には、知っておいて欲しかったの…G)