storia d'amore version helloween | ナノ



ランポウルート 1/2


『わっ!』


 慣れない下駄の所為だろうか、踏み出した足をつるっと滑らせたユキは、自分の体が後ろへ傾いていくのをスローモーションで感じていた。

 自分が尻もちをつくことよりも、手に持ったままのパンプキンプリンをどうやって皿から落とさずに済むかということしか考えられなかった。


『どあっ!!』

『ふわっ!!』


 自分の声に別の人物の声が重なったような気がしたと思うと同時に床に倒れ込む。

 咄嗟に目を閉じた状態で、ことりと首を傾げる。衝撃が予想よりずっと軽いし、お尻も痛くない。


『いつまで乗ってんだものね…』


 ごほっという咳払いと共に発せられた言葉に、目を開けて振り返る。

 痛くないと思ったら、声の持ち主をお尻の下敷きにしてしまったらしい。

 仰向け状態でユキをじとりと睨むのは、全身ぼろぼろの布きれでぐるぐる巻きにされた、ミイラ男の仮装をしたランポウだった。

 頭に巻かれた布からは薄い緑の髪の毛が、顔では片目と鼻と口はあらわになっているため彼だとわかるが、ぱっと見では少々ぎょっとしてしまう。


『大丈夫?』


 床に両肘をついて体を起こそうとしながら言われ、ユキは笑顔を向ける。


『平気!全然形崩れてないよっ』

『誰が指が何十本も突き刺さったプリンの話をしてるんだものね』


 ぴしゃりと言い返されてユキはしゅんと眉を下げた。

 そんなに強く言わなくてもいいではないか。本物そっくりに作り上げたマジパンの指は、なかなかの傑作で落としたくなかったのだ。


『俺様はユキに怪我がないか訊いたんだものね』

『はいありませんごめんなさい』


 ぺこりと頭を下げて謝ると、ランポウはん、と頷いた。

 両手が塞がっているユキは、とりあえず近くにあった椅子にプリンの皿を載せる。


『さっさと退いてほしいんだものねー』

『うっるさいなぁわかってるよー……っと!?』


 ランポウの上から立ち上がろうとした途端、足が思うように動かずに目を白黒させた。

 下駄を履いたユキの足と、ズボンの上から帯状の布を巻いていたらしいランポウの足が絡まっていた。ランポウがユキを助けるためにスライディングをした際、布が絡まってしまったらしい。

 とりあえず腰だけでもランポウの腹の上から下ろしたユキは、絡まった布に触れて驚く。


『何この布!?凄く固い…ゴムみたい』

『ボンゴレの開発部の粋を結集した新しい拘束帯だものね。ぼろっぽく見えるのは特殊加工』


 思わぬところで目の当たりにしたボンゴレクオリティに、ユキは乾いた笑いを零す。

 絡まった布は一見ぼろ布なのに強い伸縮性を持ってユキの着物の裾ごと足を締め付けている。


『これ、手で外せるの?』

『足くらいちょっと伸ばせば抜け……あれ?』


 起き上がり、ユキの横から手を伸ばそうとしたランポウが、ぴたりと動きを止めた。

 ランポウが腕を動かすと背中部分が引っ張られる感じがして、ユキは嫌な予感がした。


『絡まったんだものね』

『やっぱり!』


 首を捻って自分の背中を見ると、太鼓結びにした帯にランポウの腕から垂れ下がった布が見事に絡まっていた。


『なんでこんな絡まり易いものをずるずるしてるの!』

『布をぴっちり巻いたミイラがいるわけないんだものね!』


 間髪入れずに言い返されて、ぐっと押し黙る。それは確かにそうだ。

 形が崩れるほど絡みついた拘束帯は、鋏やナイフで切れるかどうかも怪しい強度だ。まぁ拘束帯なのだからそれくらいの強度がなければ意味がないのだろうが。


『なんでこんなもの使ったの…?』

『ボスに実験台になるよう言われたんだものね!』


 俺だって痛いんだものね、とぶつくさ言うランポウが、突然ぴくりと反応した。

 ぐい、と腕が引っ張られたと思ったとき、ユキの視界はぐるりと一周した。