storia d'amore version helloween | ナノ



ファビオ&コザァートルート 1/2


 コン、コンコン。



 指の形のマジパンを、ひとつ摘まんで口に咥えたとき、勝手口のドアがノックされた。

 こんな夜に、しかも勝手口から誰だろうと思いながら、ユキはドアに近づいて声をかけた。


『はい。どちらさまですか?』

『あ!ユキ様ですね。僕です。ルティーニです』

『ファビ!』


 ユキはぱっと顔を輝かせた。ボンゴレの郵便係の少年・ファビオの澄んだ声がドアの向こうから聞こえてきたのだ。

 同じ色の髪と瞳を持つ最強の守護者であるアラウディの部下として、門外顧問機関に異動してからも、郵便係の仕事だけは継続している彼だが、こんな時間に現れたことはない。

 不思議に思いながらも、ユキはドアを引き開けた。


『どうしたの?こんな遅く、に……』


 ドアを開けながら発した言葉は、少年の姿が見えるに連れて萎んでいった。

 どこか恥ずかしそうに頬を掻くファビオは、頭には髪の毛と同じ色の大きな三角の耳、そして腰からはぴんと立った尻尾が覗き、首周りにも同じ素材だとわかる毛皮を巻いていた。

 色素の薄い、プラチナブロンドの仔狐を前にして、ユキは驚いた表情を一気に綻ばせた。


『素敵っ!どうしたの?ファビ。その格好』


 あまりの可愛らしさにぎゅっとファビを抱き締め、ユキはもふもふした毛皮に顔を埋める。

 ファビは慌てたように顔を真っ赤にしたが、つっかえながらもユキの質問に答える。


『えとあのえと、き、緊急のお手紙を届けるために来たんですが、本部にいたテオ様が、今日は屋敷でハロウィンパーティが行われているからそれに相応しい格好をしろと…』


 本日は屋敷にいる警備班も仮装することが義務付けられている。警備班の中で最もお祭り好きなのに、書類が溜まっていることを理由に本部待機を命じられたテオの泣きそうな顔を思い出し、ユキはなるほどと納得した。

 少年から体を離し、笑顔で歓迎を伝える。すると仔狐は頬を薔薇色に染めながらにこりと微笑んだ。


『ユキ様。とてもお美しいです』


 まっすぐな賛辞に、ユキは照れ臭そうに黒髪を指に巻きつけた。

 しばらくふたりで笑顔で和み合っていると、ファビがはっと自分の仕事を思い出した。


『申し訳ありません!こちらお手紙です』


 薄い赤に、黒で蔦の彫が入った洒落た封筒を二通渡され、ユキはファビに礼を言う。


『ありがとう。緊急ってことはすぐに見てもらった方がいいのかな?』


 言いながら談話室がある方向を振り返ると、狐の郵便係はゆるゆると首を振った。


『本日中にというお手紙ですが、仕事に関するものではありません。シモン=コザァート様からボスとユキ様にです』

『コザァートさんから?』


 ユキは驚いて封筒を見る。同じ種類の二通の封筒の表書きには、ジョットとユキの名前。そして裏を見ると、写真でしか見たことがないが、あたたかみのある赤い髪と同じ色の瞳を持つ、ジョットの親友であるコザァートの名が書かれていた。

 嬉しそうに裏書きを見るユキに、ファビオが笑顔を向ける。


『ハロウィンカードだそうですよ。ユキ様』


 その声に促され、ユキはシモンのマークの封蝋を外し、封筒の中身を取り出した。

 厚みのあるカードを取り出すと、ハロウィンカラーであるパンプキンオレンジと黒、そしてコザァートの髪と瞳の色を連想させる赤で派手な絵が描かれていた。