Gルート
ぽん、と肩を叩かれて、振り返ると雨月が立っていた。
『ユキ。Gがもうすぐ屋敷に着くと連絡があったでござるよ』
『ほんとっ?』
ユキは瞳を輝かせる。自分でないとわからない仕事が入ったと、昼ごろに本部へ出かけていったきりだったGが、パーティに来られるのかどうか心配していたのだ。
雨月はゆっくりと頷いて、壁にかかった時計を見やる。
『馬で飛ばして帰ると言っていたそうだから、もうそろそろ着くでござるよ』
『じゃあもう玄関に出てないとね。雨月、料理お願いできる?』
『承った』
快く引き受けてくれた雨月に礼を言い、ユキは慌てて廊下を駆ける。走り出してから、皿を持ったまま来てしまったことに気づいたが、今更引き返すのも面倒だと思いそのまま走った。
着物のためいつもよりは速く走れなかったが、玄関を出るとまだGは着いていないようだった。屋敷の周囲をまわっているのか、警備班の者もおらず、しんとしている。
ところどころに飾られたジャック・オ・ランタンに明かりは灯っているが、周囲は暗く、ユキは少しだけ不安になる。
屋敷は安全だとわかっているが、夜の暗闇はやはり人の心を不安にさせるのだと改めて思った。
そのとき、
『おい』
『っきゃああぁぁぁっ!!!』
突然目の前に現れた影に、ユキは叫び声を上げて反射的に持っていた皿を投げつけた。
『ぐはぁっ!!』
ごっ、という鈍い音と共に叫ぶ声がしたので、命中したのだとわかりユキは恐る恐る閉じていた目を開けた。
そして素っ頓狂な声を上げる。
『G!?』
『て、てめぇ何しやがる……』
下を向いて悶絶している赤い髪は、確かにGのようだった。
ユキは安堵の息をついて彼に駆け寄る。
『もう、驚かさないでよ。G』
『人の顔面に皿ぶつけておいて謝罪はなしか?あぁ?』
『ごめんなさい許してください』
90度に頭を下げて誠心誠意謝ると、頭を掴まれて強制的に上げさせられる。
もういいぜ、と苦笑されて、ユキはへにゃりと笑った後、でも、と唇を尖らせる。
『Gだって悪いのよ。そんな格好でいきなり目の前に現れるから、びっくりしたんじゃない』
そう言うと、Gは自分の格好を見下ろして、それもそうかと笑う。
『それ、仮装ってことだよね?もしかして…』
ユキが言い終わる前に、Gは腰に挿した得物を抜いてみせる。血と錆がこびりついた日本刀だ。
『見りゃわかるだろ。辻斬りだ』
『ううーん…』
ユキは唸る。辻斬りというのは武士など刀を持った者が試し斬り等の理由で道行く一般人に斬りつける、言わば通り魔のようなものだ。
フリークとは少し違うんじゃないかと思ったが、赤黒い血が飛び散った袷と袴を身に着けたGはかなり不気味で、首の後ろで束ねた赤い髪と顔の刺青が狂気じみた恐怖を増長させた。うん。怖いからいいか。
『それで、お前は何を持ってんだ?』
『んと、取り分け用小皿30枚』
『ああ。見りゃわかる』
訊いておいてなんだそれは、とユキは口をへの字に曲げる。持ってきてしまったものは仕方ないではないか。
『いくら驚いたからって人に皿投げるやつがあるか?』
呆れたように言われて、ユキは憮然とする。
先ほどは許してくれたのに、まぜっかえすなんてと腹が立ったので、ユキは皿を持っていない手を帯にあてて踏ん反り返る。
『ボンゴレの右腕ともあろう人が皿一枚も避けられないなんてねー』
『なっ…』
ぴくりと片眉を跳ね上げるGに、ユキは挑戦的な目を向ける。
『やっぱり和服じゃ動きづらいのかしら?それとも使い慣れない刀じゃ飛んでくる皿は 斬れない?』
『なめた口利くのもそのへんにしとけよ不肖の弟子。慣れていないのはお互い様だろうが』
そこで言葉を切ったGは、顎を上げてにやりと笑う。赤い瞳がぎらりと光りを孕んだ。
するりとした動きで刀を抜くと、切っ先をユキに向ける。
『お前の腕じゃその皿はもう俺まで届かねぇよ。……来いよ』
『言ってくれるねお師匠様。それじゃ…遠慮なくっ!』
その言葉と同時に、二人は後ろに飛んで間合いを取る。
緩やかな風が吹き、ユキの濃紅の着物の袂と、Gの血糊が散った灰色の袴が揺れる。
その後、二人の戻りが遅いことに気づいたボスと守護者達が探しに出ると、玄関前で投げた皿を刀で叩き落とし、真っ二つになった皿をまた拾って投げるという攻防を繰り返すユキとGが目撃された。
止めるに止められず警備班はおろおろし、ボスと残りの守護者達は笑いながらその様子を観戦したのだった。
辻斬りを挑発してはいけません
(で、ユキはなんで落ち込んでいるんだ?)
(投げた皿の中に、プリーモが昔気まぐれに買った貴重な一点ものの骨董品が交じっていたらしいでござる)
(自業自得だぜ。っ!痛ぇ!ユキわかった悪かった止めろ!)
Halloween top
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