アラウディルート 2/2
『た、食べっ、食べちゃダメです!!』
気づいた途端に恐怖を感じ、ユキは大慌てで腕を引く。冗談ですよねと笑って流すには、彼の目は真剣過ぎた。
手首を掴む手から逃れようとするユキの顔を、アラウディがもう片方の手で押さえた。
『顔……』
『ひっ…』
『顔は…どこも、なくなったら困るね……』
ユキは息を呑んだが、アラウディの言葉に安心する。
すると顔に触れた狼男の爪が、唇を小さく引っ掻いた。
『食べたいところは、あるんだけどね』
怖がっている間に、青い瞳の狼の顔がすぐ目の前にあった。鼻がぶつかりそうなほどの近さに、ユキは慌てて体を引く。
だが逃げ切る前に鋭い爪を持った手に簡単に捕まってしまう。
『耳は?』
『へ?みみ?』
反射的に頭についた黒い猫耳を示すと、すっと頬の横を風が通り抜けた。
『耳』
『あ、待って!アラウディさんっ!』
髪の毛で隠してあった人間の耳を摘ままれ、ぴりっとした痛みが走る。
思わず顔を顰めると、その一瞬の隙に左耳をかぷりと噛まれた。
『っきゃ!』
『耳なら、少しくらい齧っても…聴こえるよね?』
『だ、だめ!聴こえても、ダメです!』
噛まれたままの耳に直接言葉を注がれて一瞬意識が飛びかけたが、慌てて首を振って逃れる。
ベッドの上でじりじり後退ると、同じ速度で青い瞳の狼がにじり寄ってくる。
プラチナブロンドが月明かりできらきら輝き、本物のような固い毛で覆われた耳を見ていると、まるで凶暴な魔物のように見える。
『り、林檎! 林檎、剥きますからっ!』
このままでは食べられる。文字通り、頭からむしゃむしゃと!
そう思ったユキは、伝家の宝刀を繰り出した。
これをアラウディが断るはずがないと思って口に出したが、美しい狼男は一瞬動きを止めた後、ふっと微笑んだ。
飢えた獣が笑えば、こんな感じなのかもしれないと、頭の片隅で思った。
『悪いけど、今日は猫が食べたい気分なんだ』
戦慄した。
こんな状態のアラウディから、逃げられるわけがない。
目尻に涙が溜まる。神経が通っているはずがないのに、付けている猫耳や尻尾までが逆立っている気がする。
『ね、猫の形に剥きますからぁ!!』
獲物の黒猫が泣きそうになりながら叫んだ言葉に、狼男は一瞬迷った素振りをみせた後、獲物に伸ばしかけた手を下ろした。
月夜に狂いし狼の獲物。猫か林檎のふたつだけ
(見てみろG。黒猫が狼のために赤い猫を捧げているぞ)
(仲間を身代わりにってやつか)
Halloween top
← →
|