storia d'amore version helloween | ナノ



ジョットルート 1/2


 月明かりにきらきらと輝く金色の髪、高い襟のついたマントの下はいつものストライプではなく真っ黒のダークスーツ。ふっと細められたオレンジ色の瞳は、ジャック・オ・ランタンから漏れる灯りの所為かいつもより赤みを帯びて見える。

 赤黒い液体が入ったグラスを持ったジョットがにっと微笑むと、唇の間からきらりと光る白い牙が覗いた。

 目の前にことりと置かれたグラスにユキが苦笑すると、ジョットが隣の椅子に腰掛け、テーブルに肘をつく。


『これ、誰の血?』


 スプーンをこつん、とグラスに当てて問うと、ジョットは自分の分らしきもうひとつのグラスをあおり、中の液体を、喉を鳴らして飲み干した。


『赤ワインとトマトジュースと薔薇のリキュール、まぁ…血も入ってたかもしれないな』

『特別仕様のカクテルってわけだ、カボチャ割り大会に負けた吸血鬼さん』


 意地悪く笑ってみせると、ジョットはばれたか、と笑って赤ワインの瓶を取り出した。おそらくカボチャ割りでビリになったときの罰ゲームで飲ませられたワインだろう。中身が3分の1まで減っている。

 カボチャ割り大会が始まる前からかなり飲んでいたみたいだったからなぁ、とユキは微笑む。そうでなければいくらなんでも彼がビリになるとは思えない。

 とくとくとく。ジョットは空のグラスにワインを注ぎ入れ、また一息に飲み干す。勢いよく飲んだ所為か、口の端から少し零れた赤い液体がジョットの顎に伝う。


『あ、もう…。今ナプキンを…』

『いや、いい』


 テーブルの上のナプキンに手を伸ばしかけたユキを制して、ジョットは自分の口元を指で拭う。

 けだるげな仕草で拭った指先をぺろりと舐めるジョットの目は熱っぽく潤んでいて、やけに色っぽい。


『ん?どうした?』


 唇に指をあてたままのジョットに声をかけられて、ユキは目の前の吸血鬼に魅入っていたことに気づき、慌てて目を逸らした。

 その逸らした顔が、耳まで真っ赤になっていることに気づいたジョットはくすりと微笑む。


『可愛いな』

『へっ?』


 思わぬ言葉に、体が跳ねるほど反応してしまった。背けていた顔をジョットの方に戻すと、彼がこちらに向かって手を伸ばすところだった。

 驚いて首を竦めると、長い指がユキの頭の赤い角を引っ張った。ジョットは機嫌が良さそうに、短い角をくいくいと引っ張っている。


『角』

『つの…』


 実際には自分の体の一部ではないとはいえ、頭にちょこんとつけている角をくいくいされるのはなんだか恥ずかしい。

 喉に渇きを覚えて、無意識に目の前のグラスを手に取り口を付けかけて、止める。美しいと感じるほど赤い血のような液体からは、きついアルコールの香りがした。


『可愛い角だ』

『つの…』


 グラスを置くと、一瞬頭がぼうっとした。


『角…だけ?』


 ジョットの作ったカクテルは、匂いだけでユキの頭を混乱させたらしい。ユキが自分の言った言葉の意味を理解する前に、目を丸くしていたジョットがにやりと笑んだ。

 オレンジ色の瞳が赤みを増し、吸血鬼の牙が白く光る。


『まさか。ユキは全部……可愛い』

『っ』


 頬を撫でる手が熱い。否、ジョットの視線、声、すべてが熱を持っているようだ。