storia d'amore version helloween | ナノ



ランポウルート 2/2


(んーっ!ん、んーっ!!)

(静かにするんだものねっ!)


 着物の足と帯に絡まった布を引っ張られ、クロスのかかった食堂のテーブルに引きずり込まれたユキは、自分の口を塞ぐランポウを睨むように見上げた。

 大人しく力を抜くと、ちょうど足音が開きっ放しの食堂のドアの前を通過した。

 足音が聞こえなくなるまで遠ざかると、ユキに覆いかぶさるような状態のランポウがふ、と息を吐いた。テーブルクロスの中にいる所為か、彼の緑色の髪と瞳がいつもより濃く見える。


『なんで隠れるの?解くのを手伝ってもらえばよかったのに』


 ますます絡まっちゃったよ、とユキが眉を寄せると、ランポウは大袈裟に目を大きくした。


『こんなところボスやGに見つかったら(俺が)えらい目に遭わされるんだものね!誰かに手伝ってもらうなら雨月さんがひとりで通りかかるのを待つしかないんだものね』


 オーバーだなぁと思ったが、ランポウがあまりにも必死な形相なので口には出さず、ユキはランポウの顔に巻かれているぼろ布を引っ張った。

 さすがに頭にはボンゴレ仕様の拘束帯は巻いていないようで、鼻の頭の上の布は薄く、乾いた感触がした。


『なんかランポウの顔汚れてない?どうして?』

『この状況でよくそんな質問が出るんだものね…?まぁいいけど、ミイラ男だから布の下に肉が腐ったように見える特殊メイクを…』

『うわぁ凄い!リアルだねー』


 目を輝かせて布の下を覗き込もうとするユキを、ランポウは首を振って制した。

 じとりと睨みつけると、自分の下に横たわる彼女はかつらによる長い黒髪を床に散らし、悪戯っこのようにぺろりと舌を出した。

 ユキが日本人なのはわかっていたが、濃紅の着物姿の彼女はやけに扇情的だ。

 こんな状況、誰にも見られるわけにはいかない。

 ボスや他の守護者に見られでもしたら…確実に潰される吊るされる絞られる。唯一口止めして黙っていてくれそうなのは雨月くらいだが、パーティの真っ最中に彼が一人で食堂を訪れることは恐らくないだろう。


『とりあえず、一番やっかいなのは帯だから…帯解かなきゃね』


 どうしたものかと悩んでいたところ、ユキのけろっとした発言にぎょっとする。


『帯、ここで解くの…?』

『うん。帯解けば拘束帯が外せるし。あ、大丈夫だよ襦袢着てるから』


 目をかっぴらいているランポウに気づいたユキはへにゃりと笑う。

 これは大丈夫とかいう問題なのだろうか。というか、男の前で平気で帯を解くとか言い出すのは問題じゃないのか。





 ランポウの頭の中で、ユキの提案とこのままここでうだうだやっていてジョット達に見つかってしまう可能性が、頭の中で天秤に掛けられ、一方に傾いた。





『きゃっ』


 ユキの腰を強く抱き、勢いをつけて体を回すと、ユキとランポウの体勢がくるんと入れ替わる。

 びっくりしたように目を大きくしたユキの顔が眼前にあった。

 体の位置が入れ替わったこどで、ユキの重みを全身で感じる。黒髪が顔をくすぐり、思わず目を細める。


『俺が、解く』

『あ、うん』


 あっさりと頷くユキに、溜め息が出る。あ、うんじゃないんだものね。

 手を伸ばして柔らかな頬をぎゅっと抓る。マホガニーの瞳が一瞬大きくなる。


『いひゃい』

『痛いじゃねーんだものね』


 ユキの後頭部を掴んで引き寄せると、うぶ、と声を上げて倒れこんできた。心臓の真上にユキが右耳をくっつけているのが、落ち着かない。


『解いてやるから、絶対こっち見るんじゃないんだものね』

『パンプキンプリン食べたい…』

『返事するんだものね!』

『痛っ!』


 左耳をぺん、と叩く。あーもういい匂いするむかつく。



 ユキの背中に手を伸ばす。





 あぁもう。なるようになれ、だものね。








 しゅるり、と帯が解ける音が聞こえた瞬間、拘束帯で作られたミイラは脳が痺れるのを感じた。








テーブルの下のミイラ








(でもパンプキンプリンは食べたい。たとえ指が何十本刺さっていようと)





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