郵便係、随喜
いやいやちょっと待ってなにこれどうしてなんでこうなっているんだ。
『んー。外で食べるとやっぱり美味しいね!今日は天気もいいし。ね、ファビ?』
『あ、はい。ははは…』
『レタスを挟みすぎたな…。おいファビオ、ソース取ってくれ』
『は、はいっ!どうぞっ!』
今日はとても天気がいい。
美しく荘厳な屋敷の外で、なぜ自分はユキ様とG様に挟まれてサンドイッチを食べているのだろう。
先日、町の酒場でG様とダンジェリ様に遭遇した。
そして今日、郵便を届けに屋敷を訪れると、満面の笑みを浮かべたユキ様に出迎えられた。
ユキ様の笑顔に押されるままに屋敷に足を踏み入れかけたが、なんとか堪えた。
ボスと守護者様の自宅とも言える屋敷に、自分のようなものが入るわけにはいかない。
そう誇示し続けると、不満そうな顔をしていたユキ様はすぐに笑顔に戻り、あれよあれよという間に敷地内の原っぱに敷物が敷かれ、バスケットと茶器が一式登場した。
そこまでしてくれたのだからと有難く敷物に座らせていただき、一息ついて隣を見るとG様が座っていた。心臓が飛び出るかと思った。
『ファビ、口に合うといいのだけど、どうかな?』
『とても美味しいです。こんな美味しいものは初めてです』
言葉に力を込めて言うと、ユキ様は嬉しそうに微笑んだ。いつもと同じ、シャツとパンツとエプロン姿だが、思わず見惚れてしまうほど綺麗だ。
そしてお世辞ではなく、切れ込みを入れたクロワッサンに挟んで食べる、ローストビーフもスクランブルエッグも、レタスもトマトも、全部が美味しかった。
G様が隣にいるなど、緊張して何も喉を通らないかと思ったが、やはり美味しいものは別だ。だって美味しいのだから。
『ファビ、紅茶を飲む?コーヒーも用意してあるけど』
『あ、紅茶の方が…ってユキ様にそんなことしていただくわけには!僕がやりますから!』
『遠慮しないで。それに、きっとこの中でお茶を淹れるのが一番下手なのはファビだと思うな』
『違いねぇ』
くすくすとユキ様に、喉でくつりとG様に笑われて、頬に熱が集まるのを感じた。
ユキ様が淹れてくれた紅茶をひとくち飲んで、目を見開く。これは一部下が飲んでいい味ではない。
『ユキー……』
『ふわっ!びっくりした!』
『ボ、ボスぅぅぅぅっ!!!?』
『おう、プリーモ』
突然の声に振り返ると、悲鳴に近い声が自分の口から飛び出した。
いつの間に現れたのか敷物の上に膝立ちになったボスが、ユキ様の両肩の上に手を載せ、顎を頭の上に載せていた。
金色の髪、オレンジ色の瞳の美青年。こんなに間近で見たことなどない、我らがボンゴレのボスだ。
ボスはぐったりした表情で、ユキ様の頭の上で話し始める。
『腹が減った…。もう限界だ…』
『お前、書類は片付けたのか?』
『片付けてはいないが、もう限界だと言っただろう…』
じとりと恨めしそうに睨まれて、G様は口をへの字に曲げたが何も言わなかった。
ユキ様はふふっと笑いながら、ボスのためにローストビーフとレタスとトマトを挟んだクロワッサンを、頭の上に掲げる。
口の前まで持ってこられたサンドイッチを、ボスはユキ様の肩から手を離して受け取った。
『ん……。美味い。ユキのローストビーフは最高だ』
『ありがとう。ジョット』
もぐもぐと咀嚼した後、笑顔を浮かべるボスに、ユキ様はふわりとした笑みを返す。
ボスのこんなくつろいだ表情は初めて見る、とほうけていると、そのオレンジの瞳が突然自分に向けられて再び叫びそうになった。
『ファビオ。お前にやっとお礼ができるとユキがとても喜んでいた。それに、いつも郵便係の仕事をちゃんとこなしていることは聞いている。いつもよくやってくれて、感謝しているぞ』
『っ………ボス……』
柔らかい言葉は、電流のように一瞬で体中を駆け巡った。
目頭が一気に熱くなり、涙が出そうになったが下を向いてなんとか耐えた。
だが3人にはすぐバレたようで、頭と背中が急にあたたかくなったような気がした。
感動で震える手から、ユキ様が優しく紅茶のカップを受け取ってくれた。
ぐしゃりと髪が乱され、頭の上に載った手がG様のものだとわかり、労わるように背中を叩く手は恐れ多くもボスに違いない。
『今日は本当に素敵な午後になったね』
『ん、そうだな…』
『あぁ。そう思うぜ…』
ボスと、ボスの右腕と、ボスの大切な人。
大気圏まで上の存在だとわかっているのに、ここはこんなにも心地良い。
『紅茶の淹れ方を、覚えます…』
何か言わなければと思って口を開くと、なぜか思いきり笑われた。
郵便係、随喜
デザートはフルーツタルトらしい。そういえば甘いものは好きかと訊かれたような気がする。
* * *
50000打御礼こっそりクイズ企画、正解者のひとりの香里様のリクエスト、警備班長、非番の後日談です。 まさかオリキャラであるファビオの話をリクエストしてくださるとはつゆほども思わなかったです(笑) ですがリクエストいただいた瞬間になんとなーく考えていたネタが一気に形になりました。 ユキさんとG様にサンドイッチされながらサンドイッチを食べる少年← トッピングはジョット様で(^∀^)ノなんて(笑)
香里様、こんな感じで大丈夫だったでしょうか? 企画参加ありがとうございました! 香里様のみお持ち帰り可です。
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