警備班長、受命
『屋敷に…女性を住まわせるのですか?』
リナルド・ダンジェリは驚きに眉を跳ね上げ、無礼であるということを忘れて己の直属の上司をまじまじと見た。
北イタリアの暴動鎮圧を終えた上司が戻ってきたとの知らせを聞き、早速本部にある上司の執務室に参じたリナルドに、赤い髪と目、左頬から首に伸びる刺青を持つボンゴレボスの右腕であるGは開口一番こう言った。
【ボスが女を拾った。ボンゴレで引き取って屋敷に置くから、お前も覚えておけ】
G様が自分に向かってそう告げた理由は明白だ。自分はボンゴレのボスと守護者が住む屋敷の警備班長だからだ。
わかっていても、思わず屋敷とはあの屋敷ですかと聞き返してしまいそうになった。
ボスとその右腕が住み、守護者も年の半分以上生活をしている屋敷は、ボスの意向で出入りする人間を厳しく制限している。
警備は自分を含めたボンゴレの精鋭が数人ずつ交代で担当し、屋敷の中の雑務は全てG様がこなしているためメイドなどは一人もいない。
それなのに、まさか拾った女を屋敷に置くなんて。
『まぁな。暴動に巻き込まれて身寄りを亡くした女だ。ボンゴレに責任がある』
G様はよどみなく答えたが、その言葉になんとなく引っかかるものを覚えた。
言葉通りなら、確かにそれはボンゴレにも責任があり、引き取るという選択をするのはボスらしいとさえ思う。
だが、何かそれだけではないように思えた。
理由なんてわからない。
だがボンゴレの右腕の、その右腕を務めて2年。上司の表情に何か含むところがある、ということくらいはわかる。
『何か、わけありの女性ですか?』
問いかけると、G様は少しだけ目を細めた。
これも2年経ってようやくわかるようになった変化だ。
『なぜそう思う?』
そう返されて、自分の肩が少しだけ落ちた。
この切り返しでわかった。G様がこの質問に答える気がない、ということが。
『いえ。特に理由はありません』
嘘だが。
『…そうか』
赤い目がふっとやわらいだ。
珍しい表情の変化に驚いた。自分は感謝されたのだ。
わけありだが、面倒事ではないのか。
面倒事なら、この上司がこんな表情をするはずがない。
『おまかせくださいG様。警備班長リナルド・ダンジェリの名において、お屋敷の警備は今まで以上に万全に致します』
『期待しているぞ』
静かに礼を取り、執務室を出ようとすると、G様が今思い出したかのようにあぁ、と呟いた。
『リナルド、お前日本語は話せたな?』
『は?』
日本人なんですかその人。
警備班長、受命
命を受ければ走るのみ
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