警備班長の事情 | ナノ


警備班、雑談


『タノさんて、リナルド先輩と同期なんすよね?』

『そうだが』


 明るい茶髪とオリーブ色の瞳の、20歳の青年テオが唐突に尋ねると、黒髪に深い青の瞳、浅黒い肌の無骨な青年タノは短く答えた。二人はテオがボンゴレに引き抜かれてからの二年の間、ずっとコンビを組んでいる。

 童顔で痩身のテオと、23歳という年齢の割には老け顔で巨体の持ち主のタノは精鋭の中でも高い地位にあり、Gの右腕や警備班長以外に数多くの仕事を抱えるリナルドがいないときは、彼らが警備班を率いる立場である。


『タノさん以外の同期さんって、皆他の部隊の精鋭とか、同盟ファミリーの幹部とか…とんでもないのばかりっすよね』

『それがどうした?』


 バルコニーに肘をつくテオに、タノは不思議そうな視線を向ける。同期と過ごした時間は長くはなかったが、内容の濃い時間だったのを思い出す。


『一応俺も精鋭なんで、その人たちと喋ったことありますけど……誰も当時のリナルド先輩のこと教えてくれないんすよねー』


 上目使いに見上げてくる後輩に、タノは唇を引き結んで沈黙する。タノも、同じ質問をそれこそうんざりするほどされてきた。


『聞いてどうする』

『だってリナルド先輩の下っ端時代って気になるじゃないっすか。当時の教官や指導係も口を割らないし』

『大袈裟だな』

『だって本人からだともっと聞けないんすもん。何回飲みに誘っては潰されたことか…』

『毎回俺が背負った』


 うっとわざとらしいポーズを取るテオを目を細めて睨むと、ぺろりと舌を出した。


『俺が気になるのは、誰もが徹底的に口を割らないってことなんすよ。まさか新人当時の関係者全員の弱みを握っているわけでもあるまいし』


 そう言って同意を求めるように顔を上げると、タノの表情がこわばっていることに気づいた。傍から見ればわからないが、何度も命を預けた相手の表情くらいはテオにも読み取れる。


『え。まじっすか?』

『…そんなことできるわけないだろう』

『いやいやあり得ることっすよ。リナルド先輩に睨まれたらメデューサだって石になるってことは俺だって知ってるっす』

『ほぉ…よくわかってるじゃないか、テオ』


 後ろから聞こえた低い声に、テオはひぃっと声を上げて飛び上がった。タノも驚いて振り返る。

 きっちりと固めた黒髪に、不機嫌な色を浮かべる灰色の瞳、完璧な美貌の警備班長が立っていた。唯一いつもと違うのは、背広を脱ぎ、白いシャツの両腕を肘まで捲っていることだ。


『もおぉーどうして俺達相手に気配が隠せるんすか先輩はぁ!』

『お前達がまだまだだからだろう。今日のお前達の仕事が何か言ってみろ』

『なまえ様のお手伝いで図書室の本の虫干しです!』

『そうだ。そしてなまえ様がくださった休憩時間はとっくに終わっている』


 リナルドがぎらりと睨みつけると、テオは飛び上がってバルコニーから走り出た。

 腰に手をあてて見送ったリナルドが、すっとタノに向き直り、タオは反射で姿勢を正す。


『テオに付き合って時間を忘れるような警備班は必要ないぞ、タノ』

『申し訳ありませんリナさん……いえ、リナルドさん』


 失言したタノにリナルドは目を細めたが、何も言わずに顎で行けと命じた。

 すでに階下では、なまえとテオの明るい声が響いている。

 一礼して、仕事に戻ろうと歩きだす。リナルドの横を通り、バルコニーを出ようとしたタノの耳に、風に乗って声が届いた。


『このお屋敷は居心地がよすぎて…いけないな。気が緩んでしまう』

『それは…』


 よかったですねと言いそうになって、やめた。石にはなりたくない。

 






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 貴方がそう思える場所ができて、よかった。






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