三つ華 見習い編 | ナノ


03


「何に、と言ったな?」


 一角に問われて静かに頷いた鈴を、弓親はじっと見つめていた。

 短い黒髪に、中世的な顔立ち。女子生徒の制服を着ていなかったら、性別がわからなかっただろうと考えてしまう。

 そう考えるのも、鈴の落ち着きようが、あまりにも普通の少女らしからぬからだろう。

 現世の人間ならありえないと思う状況で目覚め、唐突に自分の死を告げられても、素直に受け入れてしまった度量。


(きっと気に入るだろうな、うちの隊長。)


 そんなことを考えていると、一角が鈴の身に起こった出来事を説明していた。

 事の起こりから、まだ2時間も経っていなかった。

 緊急指令を受け、指名手配の虚を仕留めるため、一角と現世に向かった。

 技術開発局の通信部門から、虚の様子と、常駐の死神では話にならないという事実は聞いていたから、二人の間にも焦りが表れ始めていた。

 虚が標的を決めたという声が通信機を通して聞こえてきたと思った途端、前方三里の場所から、膨大な光が柱のように立ち上った。

 音はしなかったが、全身を貫かれるような霊圧を浴びたのがわかった。

 一角が「何が起こったんだ!?」と通信機に向かって叫ぶ声で、我に返ったのは記憶に新しい。


「お前は確かに、虚に肉体を引き裂かれ絶命した。だが、お前を殺した虚を殺したのは、お前だ」


 魂魄が肉体から離れた瞬間、鈴の魂魄が放つ霊圧が、虚を粉々に吹き飛ばしたのだ。

 霊圧というものがよくわかっていない鈴に一角が説明している間に、弓親は尸魂界への門を開き、地獄蝶を呼ぶ。


「実感は沸かないだろうが、ここはお前にとって危ない場所だ。話の続きは、尸魂界に行ってからだ」


 一角に促され、立ち上がる鈴を見て、弓親は堪えきれず笑みを濃くした。

 すらりとした、背の高い、青年のような…美しい少女。





 何も知らないこの子が、隊長各レベルの霊力を持っているなんて。





「おし、解錠!」


 一角が声を張り上げると、ぐにゃりと空間が歪み、尸魂界へ続く道が現れる。

 くるりと頭上を旋回した地獄蝶を指に止まらせ、鈴はふと笑みを浮かべた。








 彼女はきっと死神になる。








(もちろん、僕の願望も交じっているけれど)







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