三つ華 見習い編 | ナノ


01


 45年前 − 尸魂界・技術開発局内 通信技術研究科。





 ヴーッ! ヴーッ!


「緊急指令!緊急指令! 第一級指名手配の虚が現世にて出現!直ちに応援を送る必要あり!応援を送る必要あり!」

「どこに出た?」


 技術開発局局員の阿近は、モニターにかじりついている通信技術研究員に声をかけた。

 研究員は慌しくキーボードを叩き、数値の羅列を見つめた。


「座標五の千百九十七、東京・空座町です!常駐死神は十三番隊高坂 松次郎」

「あの虚は席官を5人殺して逃げおおせてる。平隊員じゃ話になんねぇぞ」


 阿近の言葉に、研究員は神妙に頷いた。視線はモニターから外れず、キーを叩く手も止まることはない。


「上位席官の要請と、穿界門と地獄蝶の用意を急がせています」


 その時、ピー!ピー!というけたたましい音が近くで鳴り響いた。

 研究員が振り向き、「どうした壷府!?」と声を張り上げた。

 前髪を含む頭部の髪の毛をちょんまげのように結んだ、壷府と呼ばれた少年は、青ざめた顔で目の前のモニターを凝視している。

「虚が、さっきまでは現世と虚圏を行ったりきたりしていたのに、今は現世に出たまま移動しています!魂魄を襲う気かもしれません!」


 戦慄が走った。

 壷府の推測は、可能性が極めて高いと思えるものだった。

 だが、それがわかっていても、応援が到着するまでに、確実に1人は犠牲が出る。

 このまま待つにしろ、常駐の死神に足止めさせるにしろ、だ。

 研究員は傍に立つ阿近を仰ぎ見た。十二番隊の隊長、副隊長、この通信技術研究科のトップである鵯州も出払ってしまっている現在、阿近が一番上級の局員であった。

 阿近は表立って指示するようなタイプではないが、そうも言っていられない状況だ。

 件の虚が殺した席官の中には、当時の副隊長も含まれていた。職務続行不可能となった平隊士は席官の倍、一般魂魄に至ってはさらに倍の被害が出ている。

 今ここで仕留めるには、確固たる指示が必要だった。

 それをわかっていた阿近は、舌打ちして研究員のデスクに取り付けられたマイクに顔を近づけた。


「虚は現世にて一般魂魄を襲撃する可能性が高いという情報が入った! 通信技術研究員疋(あし)班は総出で虚の正確な位置を特定、殺(そぎ)班は狙われそうな霊力の高い魂魄及び人間の探索! あとリン!」


 名指しで呼ばれ、壷府はびくっと首をすくめた。


「常駐死神の高坂と連絡を取れ。現在位置を聞いて、虚と一定の距離を保って併走させろ。勝手に動くことは許さんと厳命しとけ」

「はいっ!」

「班長!」


 壷府リンが上ずった声で返事をした時、阿近の傍にいた研究員・疋班班長を呼ぶ声が響いた。


「虚が南西の方角に、スピードを上げて移動中!標的を決めたのではないかと思われます」


 その言葉に、阿近と班長は盛大に舌打ちをした。

 映像を出すように指示すると、すぐ全モニターに空を飛ぶ虚が小さく映った。


「応援はどうなっている!?」

「十一番隊斑目第三席及び綾瀬川第五席が先行して現世を移動中!」

「リン!高坂と連絡は!?」

「取れました!ですが今からでは間に合いません!」

「虚が急降下!」


 疋班の研究員が叫ぶと、モニター画面が変わり、虚を上から見下ろす形で映し出される。

 人通りが少ない道を、人間が歩いていた。迫りくる脅威に、何も気づかない様子で。

 降下した虚が、猛禽のような爪を持つ腕を振り上げた。

 女性局員が、小さく悲鳴を上げる。








 そして、1人の人間の生が終わった。








(それは、一瞬の出来事だった)






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