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「銀髪の隊士?」 朝稽古の後、顔ついでに頭も洗った一角に、鈴は乾いた手拭いを渡して頷いた。きらりと反射する光が眩しい。あえて何とは言わないが。 一角は手拭いを頭にのせて、肩を回す。 「うちにそんな奴いたか?」 「あ、いえ。たぶん十一番隊ではないかと」 「何でわかる?」 訝しげに寄せられた眉を見て、鈴はことりと首を傾げた。 何でって…。 月明かりを浴びる、桜鼠の着流しの男の姿を思い浮かべ、ひとつ頷く。 「十一番隊っぽくは見えませんでしたので」 「なんだそりゃ」 への字に曲げられた口を見て、鈴は苦笑を浮かべる。自分でもよくわからない。そんな気がするだけだ。 「でもその銀髪を見たのはうちの隊舎でなんだよね?」 いつの間にか鈴の後ろに立っていた弓親が言う。彼は稽古の後はいつも共同の水場を使わずに、ふらりといなくなっては身なりを完璧に整えて戻ってくる。 鈴は軽く眉を寄せて頷いた。隊舎内というか自室なのだが、まぁ隊舎であることに変わりはない。 「他所の隊の奴がうちの隊舎に来るっつーのは稀だぞ」 「そうだねぇ。来るとしても上位席官か隊長各…銀髪なら十番隊の日番谷副隊長とか、十三番隊の浮竹隊長くらいじゃないのかな」 告げられた名前を口の中で復唱する。あの銀髪の男が、副隊長もしくは隊長かもしれないということに、鈴はすぐに納得した。 だって強引だったし、勝手だったし。隊長各というのはきっとそういうものなのだろう。 「浮竹隊長はありゃ銀髪っつうか白髪だろ。白髪ロンゲ」 「自分にないものがあるからって僻むんじゃないよ、一角」 「弓親ァ!!」 一角が叫んで持っていた木刀を思い切り横に振ったので、鈴は弓親と同時にしゃがんでそれを避けた。 始まった攻防戦を避けるためしゃがんだ姿勢を保ったまま、浮竹という隊長のことを考える。 銀髪(白髪?)で、ロンゲで、隊長だからきっと勝手で強引なのだろう。 うん。部屋に来た人かもしれない。 後ろに跳びながら木刀を避ける弓親が、涼しい表情のまま言う。 「まぁ鈴のことだから心配してないけど、隊長各と会ったら礼儀正しくするんだよ」 「………はい」 鈴はたっぷり10秒黙ってから、重く頷いた。 また酒を勝手に飲まれても、怒ることができないのか。 他所の隊長をもてなしたという理由で、経費が落ちないものだろうか…。 (浮竹隊長! 今日はお顔の色が良いようでありますな!) (あぁ、仙太郎。今日は酒が飲みたい気分なんだ) (しかし隊長! まだ早朝なのですが!) (うん、だから夜にな。海燕にも付き合ってもらうとしよう) |
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