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【以上が、十一番隊第七席、七竈 耀誠が遭遇した虚の形状と能力でございます。同系統の虚が他にも存在する可能性がありますので…】 「檜佐木」 耳を撫ぜる声を聞きながら、九番隊隊長である東仙は自身の副官に声をかけた。 盲目であるが人の気配に敏感な彼は、檜佐木がすぐ側で姿勢を正したのがわかった。 「なんです? 隊長」 「この報告は、十一番隊の隊士が用意したものか?」 未だ流れる声を発する地獄蝶に、東仙は顔を向けた。 中空で羽を動かす蝶を見て、檜佐木はあぁ、と声を洩らす。 「東仙隊長用の地獄蝶報告…そうっすね。十一番隊が寄越したもんです」 「珍しいこともあるものだ」 各隊長が把握するべき報告がある場合、盲目の東仙のために地獄蝶が使われることがある。 だが十一番隊はこれまでそんな配慮をしたことがなく、寄越された書類を檜佐木が読み上げるのが常だった。 「最近十一番隊の書類が変わってるんすよ。期限を守るようになったし、誤字も減ったし…なんでも一年くらい前からいる雑用が関係してるようで」 「雑用…?」 訝しげに眉を寄せる東仙に、檜佐木は苦笑して頷いた。 「前々から噂はあったじゃないですか。事情があって霊術院に入れないから、総隊長が見習いとして引き取ったって」 東仙はしばらく沈黙してから、思い出したように机を打った。 その死神見習いの話は、隊首会で聞いた覚えがある。十一番隊で修行をするということも、十一番隊と技術開発局以外の隊舎に入ることはほとんどないから気にするなと言われたことも。 「その見習いが、十一番隊の雑用をしているということか」 「そうっすね。その地獄蝶の声が、雑用のものだと思いますよ。あの隊でこんな話し方ができる奴は綾瀬川くらいっすけど、声が違うから」 もう沈黙してしまった地獄蝶。 未だ記憶に残っている声は、高くもなく低くもない…少年のような声だった。 「死神見習いの、十一番隊雑用…か」 ぽつりと呟いた東仙の指先に、地獄蝶が静かに留まった。 そのころの十一番隊…。 「一本! 十崎!」 「畜生! 鈴に一本許しちまったぜ」 「やってもらいますからね荒巻さん。今日中に未提出の書類を片付けるって、更木隊の名のもとで交わした約束です」 「お、おう、男に二言はねぇ!」 「鈴! 次は俺だ。お前が勝ったらお望み通り漢字の書き取りをやってやるぜ!」 「その次は俺だ! お前の添削した通りに書類を書き直してやるぜ!」 「いや俺だ! 俺に勝ったら約束通り四番隊で水虫の薬をもらってやるぜ!」 「絶対に一本いただきます。そして約束は守ってもらいます。…はじめましょう!」 「鈴のおかげで我が隊の評判が上がってるらしいよ、一角」 「あいつ…見習いだよな?」 (顕著になりつつある影響力) |
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