花売り娘はゼラニウムを追いかける
花を買ってくれた後も、何故かボスは私の隣に座っていた。
ボスが何のボスなのか訊いたら、ボンゴレのボスだと言われた。
ボンゴレとはマフィアの名前で、この街はそのボンゴレの管轄地らしい。
マフィアと聞いて足先から震えがこみ上げてきたが、ボスは安心しろと言うように微笑んだ。
ボンゴレは元々地域住民を守る自警団で、マフィアといっても管轄地の住民に対して横暴な真似はしないという。
「み…みかじめ料とか、払えって言わない、ですか?」
「よくそんな言葉知ってるな…。言わないから安心しろ」
そう言われてほっと息をつく。
この街へ移ってきたのも、前いた街で父がみかじめを払わなかったことが原因でトラブルを起こしたためだった。
そのトラブルが原因で、母は逃げていった。
ついてくるかとは、訊かれなかった。
嫌な思い出が甦り、軽く唇を噛んだ瞬間、ボスの手が頭の上に載った。
この人の手は、あたたかくて泣きそうになる。
なんでだろう。ボスだからかな。
「ねぇボス…」
「なんだ?」
今度は泣くのを堪えられたから、顔を上げてボスの顔を見る。
困ったように微笑んでいるボスはとてもきらきらしていて、太陽の化身なんじゃないかなんてファンタジーなことを考えてしまう。
「また会える?」
ボスは一瞬驚いたように瞬いたが、すぐにくしゃりと相好を崩した。
その顔に心臓が跳ねる。
大人だけど、少年みたいに笑う、男の人。
「あぁ。この街に来る時は、必ずお前に会いに来る」
その言葉は嘘だろうと思ったが、思わずへにゃりと笑ってしまった。
ボスがそう言ってくれたことで、十分すぎるほど満ち足りた気持ちになれたから。
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