小説 | ナノ





「家康様。すぐに持って行きますからお戻りになってください。綱吉様をあまりお待たせしては…」


 言い終わる前に、後ろから包むように抱き締める。もちろん包丁を置いたことは確認済みだ。

 短く悲鳴を上げる妻の耳に、わざと息がかかるように顔を寄せる。


「俺よりデーチモのことが気になるのか?」

「そ、そういうことじゃ…」


 真っ赤になった耳に音を立てて口付けると、なまえの背中が小さく反って、自分の口元が意地悪く歪んだのがわかった。


「俺が肴を用意するから、お前がデーチモの相手をするか?」

「もうっそういうことじゃないって言ってるじゃないですか!」


 だいたい家康様料理できないくせに!と本格的に怒り出したので、笑いながら手を離す。

 ぷりぷりと怒りながら盆を持ったなまえが出て行った後、しばらく止まらなかった笑いを収めて、新しい酒を取りに行ってから座敷へ戻る。



 今日は暑いが、気持ちのいい風が吹くから襖は開け放してある。

 その開いた襖から中を覗き込んで、思わず両手に持った酒瓶を落としそうになった。



 デーチモが、座った状態ではあるが先ほどの自分と同じように後ろからなまえを抱き締めていたから。



『貴様!何をやっている!』


 思わず出たイタリア語に、なまえとデーチモの体がびくりと跳ねる。

 ずかずかと畳を踏み鳴らて二人に歩み寄ると、なまえはきょとんとした顔で見上げてきて、反対にデーチモは大慌てで腕をぶんぶんと振った。


「ち、違いますプリーモッ!あのえとその、ね、ネックレスが!」

「ネックレス?」


 きつく眉を寄せたままデーチモを見据えると、なまえがふわりと微笑んだ。


「家康様がくださった首飾りが外れてしまったんです」


 まだ慣れなくて、と頬を掻く妻に、一気に脱力する。

 どさりと腰を下ろして長く息を吐くと、デーチモも同じように溜め息をついた。

 彼の手には最近なまえにプレゼントした、イタリアで購入したネックレス。

 生粋の日本人である妻はまだつけ外しが上手くできず、毎朝毎晩自分がやっていたのを思い出す。


「すまんなデーチモ。なまえ、早く付けてもらえ」

「はいっ。家康様」

「すみませんなまえさん。失礼します」


 苦笑したデーチモが、なまえの首にネックレスの鎖を回す。

 少しくすぐったそうに微笑む妻と、少し不器用な手つきで留め具を引っ掛けようとする自分の子孫。



 いや、自分となまえの子孫…か。



 そう思うと、先ほど激昂したことが馬鹿らしくなってしまった。

 すると、


 ぼんっ


「「あ」」


 突然の大きな音と煙が上がり、ボンゴレデーチモは消え去った。

 影も形も残さずに。

 目を丸くしてデーチモがいた場所を見つめていると、なまえが首に手をやって眉尻を下げた。


「ネックレスも、一緒に行ってしまいました。あ、いえ、お帰りになってしまいました」


 ネックレスは持っていたデーチモと共に未来に帰っていってしまった。





 そう認識すると、なぜかおかしくなって、二人で大笑いしてしまった。








大切なものをんでりました








(未来のボンゴレ本部内の博物館に、展示品が増えたのはまた別の話)





* * *

10000を踏んでくださった碧様リクエストの、ジョットお相手、+10綱吉に嫉妬夢です。
特に指定はなかったので、今回は短編でお届けさせていただきました。
ジョット様メインなので綱吉は思いっきり脇役でしたが、カンキ初の綱吉が書けて楽しかったです(o^∀^o)
そしてジョット様は短編でも料理できないひとにされてしまいました(笑)
碧様、こんな感じでよろしかったでしょうか?
また機会があればリクエストしてください。
碧様のみお持ち帰り可です。

A2

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