小説 | ナノ



 くるんと、重ねる。


 くるんと、重ねる。





「随分と、長くなりましたね」



 読み終えた本から視線を上げた骸は、隣に座るなまえの手元を見て微笑む。


 彼女は先ほどからずっと、細長く切った折り紙を使って輪っかが連なった飾りを作っている。


 飾りはなまえの手元から膝に向かって伸び、膝からも座っているソファからも零れ落ち、床につくほど長くなっていた。


 何度もやっているとこつがつかめてきたのだろう。輪っかを繋げる手つきにはリズムがある。





 テープを剥がし、くるんと、重ねる。


 テープを剥がし、くるんと、重ねる。





 菓子の空き箱の中には、予め大量に用意してあった色とりどりの短冊。


 一枚一枚ののりしろ部分に両面テープが貼ってある。


 スティックのりで十分じゃないかと骸は言った。ただの飾りに、そこまでの強度を求めなくても良いのではないだろうか。


「パーティの最中に外れると、なかなかかっこ悪いのよ」



 至極まじめな顔で言うなまえが面白くて、骸は笑みを浮かべて頷いた。





 想像してみると、たしかになかなか格好悪そうだ。





「暇なら手伝ってよ。皆が帰ってくるのに間に合わない」


「僕の誕生日パーティでしょう?何故祝われる本人が手伝うんですか?」



 骸様のばーすでーぱーてぃーだびょん!と息巻いて、犬と千種とクロームがケーキや食べ物などの買い出しに行って早数時間。


 少しでも部屋を飾りつけとけと言われていたなまえは唇を尖らせる。


 どうせ多少飾り付けたところで変わらないのに、と言うとなまえが怒るのでそれは飲み込む。



「仕方ありませんね。短冊を寄越しなさい」



 床に落ちた輪っかの端を拾い上げて膝に乗せると、骸となまえの間に短冊の入った箱が置かれる。


 ソファに並んで座って、輪っかを長くする作業に取り掛かる2人。





 なかなか滑稽で、笑えた。





 色とりどりの輪っか。


 骸となまえが手を動かす度に、小さく揺れて少し長くなる連なり。


 骸の手の先を辿れば、彼女の手に到達する。



「運命の赤い糸というのは、案外こういうものかもしれませんね」



 呟くと、なまえの手が止まって不思議そうな表情がこちらを向く。



「運命論なんて信じてたっけ?」



 思わず口から笑いが洩れる。


「クフッ…。まさか。術士である以上何事もすぐに否定したりはしませんが、信じているというわけではない」



 ただ、運命の恋人同士にあるという赤い糸。


 小指と小指を繋ぐ、目に見えない赤い糸。


 目に見えないのに、どうして赤いなどとわかるのか。



「案外恋人同士の間にあるのは、こういったカラフルな、それでいて脆い紙のようなものではないかと思うんです」



 運命だろうがそうじゃなかろうが、恋人間にあるものがただ赤いわけがない。


 互い違いに連なった、色とりどりの紙。


 恋人たちが歩む道によって、新しい色も増えるだろう。



「運命って結局後付だしね」


「ほぅ。なまえは運命論者かと少し思っていました」



 嘘でしょ、と笑った後、なまえはふっと目を細めて骸を見る。



「私は運命じゃなくて、事実を見ているの」





 日本に来てくれた事実に。


 私と出会ってくれた事実に。


 今日こうして、誕生日の日に隣で輪っかを作ってくれている事実に。



「生まれてきてくれてありがとう。 好きよ。骸…」





 不意打ちに骸が呆気にとられていると、彼の恋人は照れ臭そうに微笑んでから、おどけたように輪っかの連なりを掲げる。


「もしこれが恋人同士を繋いでるなら、私達は普通より強いよ」


「それは…両面テープだからですか?」



 正解。と微笑むなまえに、骸は口をへの字に曲げる。



「大した強度じゃありませんよ…」


「いいのよ。脆いからこそ大切なんだから」



 くすりと笑って続きに取り掛かるなまえ。





 その肩を掴んでこちらを向かせると、すでにリズムに乗っていた細い指が、短冊を無意識に操る。





 くるん、と。













 短冊と同じタイミングで、その唇に重ねよう。







重なる気持ちは強度レベル2





* * *

骸さん誕生日おめでとうございます!
一応恋人設定なんですが…予想以上に淡々としてしまいました。
夢主さんがクールな人に…。
個人的には輪っかを作る骸さんが見たいです☆


A2

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