jojo | ナノ
ダイスキストライキ

※嘔吐表現・嘔吐性愛(エメトフィリア)風味


私って男運無いのでしょうか。
気付けば口癖のようになっていたその台詞を呟くとだいたい「運の問題じゃない。男を見る目が節穴なんだよお前は」とプロシュートさんに顔を顰められます。

確かにそうかもしれない、と自分でも一応自覚はしています。しかし「恋は盲目」の言葉通り惚れている時は私自身、相手の男がどんなにクソ野郎だろうとそれが全く分からないのです。愛しかった男がクソ野郎と気づくのは男に捨てられた後か、別れを切り出されるかした後です。時すでに遅し。
歴代付き合っていたクソ野郎達の写真を今でも持っていますが、それを見返すと決まって私はゲロを吐きます。
写真に映るクソ野郎達は本当にクソ野郎なのです。不細工、デブ、禿頭、チビ、ガリガリ、老いぼれジジイなど容姿に問題ありな男もいるし、金をせびる奴や浮気癖のある奴、DV男に詐欺師に麻薬ジャンキーなどなど人間性に問題のある男までいました。まるでクソ野郎達のワゴンセール。今でも嫌悪感がこみ上げます。
けれど一番許せないのは、そんなどうしようもない男達を一時でも白馬の王子様だと錯覚していた過去の自分でした。
後悔と屈辱しかない過去を洗い流したくて、私は救いを請い願いながら便器を抱きしめます。次こそは素敵な殿方と出会えますように。そう祈りを込めて私はゲロを吐くのです。
…そんなゲロまみれの願いが神様に通じたのでしょうか。最近になって、待ち望んでいた素晴らしい殿方に出会ったのです。





「ヴ、ヴォンジョルノ…メローネさん…!」

ぎこちなく声をかけると、ソファに座ってパソコンで何やらお仕事をなさっていたらしいメローネさんは顔を上げました。

「あぁ、ナマエか。ヴォンジョルノ」

にこりと微笑まれて、一瞬くらりと目眩がしました。どうしても彼を前にするといつもこうなるのです。私はドキドキと高鳴る鼓動から意識を逸らせるため、髪の毛の先を弄りながらちらりちらりとメローネさんを見やりました。

「その…私、お話したいことが…」
「ナマエ、なんだか今日は調子が悪そうだな、熱でもあるのかい」
「え、へ?」

いきなり話を遮られ、私はぽかんとしてしまいました。ふと気付けばきらきらした金色の髪が目の前に。

「健康状態は良好かい?生理周期に異常は?基礎体温は今朝測定したか?女は元気なベイビィを産まなきゃいけないんだから体は大切にしないと」

ね?と小首を傾げて至近距離で見つめてくるメローネさん。ガラスみたいに綺麗な緑の瞳に私は一気に目眩が酷くなりました。





「で、逃げ帰ってゲロ吐くってどういうことだよ。生理的にメローネを拒絶してんじゃねぇのかそれは」
「違います、これは好きすぎて気持ち悪くなってしまっただけです…うっ…ぇ…」
「おいおい後でちゃんと掃除しろよなァ…」

プロシュートさんの呆れたような声を背中で聞きながら便器を抱えてゲロを吐いていました。今朝食べたカルパッチョが吐瀉物の中に混じっているのをぼんやり見ながら私は内心幸せを感じておりました。
「好きだ」と告白はできませんでしたが、あんなに近くでメローネさんとお話できたんですもの。

「しかしよりによってメローネ選ぶなんざ、お前やっぱり目が腐ってんだぜナマエよォー」
「うぷっ…そんなことないです…!メローネさんは、」

「いやぁしかし良い吐きっぷりだなぁ!気持ち悪い時は無理せず吐く!健康的だ!」

ふと、よく通るその声に思わず振り返ればメローネさんが満面の笑みで立っていました。私は口の周りがゲロまみれなのにも関わらず、思わず固まってしまいました。

「おいお前どこから湧いてきやがった」
「ナマエの具合が悪いと聞いて心配で見に来たんだよ。そんなに睨むなって」
「どうせゲロ吐く女を観察しにきただけだろうが」
「うん、まぁそうだけど」

心配?私を?メローネさんが?
ぐちゃぐちゃとこんがらがった頭でそう認識した瞬間、また強烈な吐き気に襲われ便器を抱きしめました。

「う、ぐぇ…」
「あ"ー!またナマエが吐いたじゃねェか!テメェのせいだぞコラ」
「あぁ…淑女が嘔吐して喘ぐ姿、なかなか良い絵面だ…!良い!」

プロシュートさんを無視して歓喜の声をあげる彼はとても愉しそうでした。私は口元を拭いながら涙で潤んだ視界に彼を捉える。

「お見苦しいものをお見せしてすみません…」
「見苦しいなんてとんでもない!」

メローネさんは膝をついて私に目線を合わせてきた。アシンメトリーな金髪が揺れて、緑の瞳が優しそうに細まりました。

「吐きたい時は遠慮なく吐けば良いじゃないか。吐瀉物にまみれた君…、凄くすごく興奮する…!」

そう言われて、頬がカッと熱くなる。プロシュートさんが何か罵声をとばしていたけど耳には何も入ってこない。
ドキドキと心臓が早鐘を打つのに比例して、吐き尽くしたはずの腹の底からまた何かがせり上がってきます。
私はまた便器と熱いハグを交わしていました。


おそらくクソ野郎の写真を見るよりも私に何倍の吐き気を起こさせるメローネさんは、プロシュートさんの言う通り正真正銘のド変態なのでしょう。嘔吐する女性を見て興奮するのですから。
しかしそんなド変態のことを、私はゲロを吐くほどに好きなようです。




20150427

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