jojo | ナノ
六畳半、愛の墓場

*現パロ
*何故か和風

何年も前に、気まぐれで買ったドレスを発掘した。つるつるとした生地と黒一色のシンプルなデザインはそれなりに気に入っていたが、結局仕事場の同期の結婚式に着て行ったきりで箪笥の肥やしになっていた。
どうせ着る機会もこれから先一生無いだろうし捨ててしまおうか、どうしようかと悩んでいるとナマエが障子を開けて部屋に入ってきた。
箪笥も障子も畳も、日本の文化に凝っている彼女の趣味だ。
同棲して長いが、まだ私はこの異国の物で敷き詰められた檻に慣れない。

私と型遅れのドレスを見比べると彼女は目を丸くし、何か企んだような顔をした。
「ちょっと着てみてよ」
彼女はあほらしいことを突拍子もなく言う。自分の眉間にシワが寄るのが分かった。
「嫌ですよ」
きっぱり断ればええぇと情けない声を出して「一寸だけで良いから」と愚図りだした。
「……もう何年も前の服ですよ。恥ずかしい」
暫く沈黙があって、今度はちょっと驚いたような顔をした。
「恥ずかしがるだなんて珍しいね」
「そうですか?」
「うん」
頷くと、ドレスを攫って私の骨張った薄い肩にあててきた。貴女は自分の服を選んでいる時よりも楽しそうな顔をする。つくづく物好きな方だと思う。
「大胆なドレスだけど…今でも似合うと思うよ。モアさんは若いから」
「また貴女は下手糞なお世辞を…」
「どうせ捨てちゃうんでしょ?一回着るくらい良いじゃない」
彼女の黒鳶色の瞳は好奇心にぎらぎらと輝いている。こうなった彼女は頑固だからきっと断り続けるだけ無駄だろうと悟った。仕方が無い、と長年の経験から抵抗を諦めることを選択した。
「一回だけですよ。一回着るだけですからね」
渋々ドレスをひったくれば、ナマエは面白いほど顕著に目の縁を赤く染めた。
なんて単純。



ブラックモアは昔から美人だった。
こじんまりとした小さなオフィスで派遣OLをやっているのが不思議なくらいに。後ろで引っつめにしたプラチナブロンドと透き通るような色白が社内では一際目立っていた。
同期の子の結婚式に、彼女はあの黒のドレスを着ていたのを今でも鮮明に覚えている。黒のレースから透けて見える背中と、ほっそりとした二の腕が白く脳裏に焼き付いて離れない。

「障子閉めてください。向かいから見えるじゃないですか」
ブラウスのボタンを外していきながら肩越しに睨まれる。ごめんごめんと障子を閉めれば、和昼間なのに夕方のように和室は薄暗くなった。
さらにむこうを向いてろと部屋の隅を指さされたのでブラックモアから背を向ける。
私も彼女も無言だったので、布が擦れる音と脱いだ衣服が畳に落ちる音が余計に大きく聴こえてきて、それだけで逆上せ上がりそうだ。もうお互いにいい歳になるというのに私は何を期待しているんだろう。
天井を見上げながらぐるぐると葛藤していると「ね、」と彼女が呼ぶ。振り返れば白い背中が目の前に飛び込んできた。思わずあれっと発した声は裏返る。
「下着は」
「ビスチェなんてあるわけないでしょう」
「あ、そうか、そうだよね」
「早く。背中のファスナー上げてくれませんか」
少し尖った声。彼女の指は金色の長い後ろ髪を上へ掻き上げ、私の方に燦爛と輝く純白を差し出している。
頬ずりしたい。
燻る欲求をなけなしの理性で抑えながら、恐る恐るドレスの小さなファスナーを摘み、ゆっくりと上げていく。金具が噛み合う度に象牙のような白が細く消えていってしまう。それを見送りながら、ひどく惜しいような残念な気持ちになった。

「あら、まだ着れるもんなんですね」
ぴったりとした黒のドレスを纏ったブラックモアは鏡に自分を映し、少しだけ表情を緩ませた。着るのを渋っていたわりにはやけに上機嫌みたいだ。感情の起伏が極端に少ない彼女のこんな姿を見るのはいつぶりだろうか。
「やっぱり私の思った通り。今でも昔と変わらず綺麗だよ」
思わずそう呟くと、ブラックモアは鏡から目線を外してこちらを振り返った。刃のような冷笑が私を見下している。
「貴女も昔と全く変わりませんね」
そうだよ、他人の結婚式なんてどうでもよかったんだ。


20161004

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