「今月も売り上げは上々のようだな」 オーナーはわたしが提出した今月分の報告書を見て、橙色の渦巻きを象った仮面の下でくつくつと満足そうに笑いました。両脇に控えるゼツさん二人も笑みを浮かべています。 「これからもこの調子で頑張ってくれよナマエ」 「あら、頑張ってらっしゃるのは売り場担当者の皆さんです。わたしはあくまで脇役ですよ」 「そう謙遜するな。お前のセールストークもこの売り上げに充分貢献している」 「勿体無いお言葉感謝します」 わたしは腰を折り深々とお辞儀をしておきました。 「死にたがりが死ねずに自殺者を見送るのはさぞや大変だろうな?」 意地の悪いオーナーはそう余計な一言も付け加えました。きっと仮面の下ではわたしのことを嘲るような目をしているに違いありません。本当にこの方は人の毛を逆撫でするのがお好きなようです。もうわたしは慣れっこでした。 「いいえ、最近は楽しいですよ。一度きりの人生でありとあらゆる死に触れられますからね、この仕事は」 雇って頂いたオーナーには感謝しています。 早口でそう答え、にこりと笑いかけました。 「……早く死ねると良いな?」 仮面の奥の赤い瞳はわたしを面白がっているように輝いていました。 * いらっしゃいませお客様。わたしはお客様相談係のナマエと申します。今日はどのような自殺をお望みですか? …え?まだお決まりでない?あら、でも心配はございません。死に方をどうするのか曖昧なまま御来店なさるお客様のほうが多いんですよ。当店ではそんな方々のためにありとあらゆる自殺用品や方法を取り揃えておりますからご安心を。 縊死、焼身、溺死、リストカットや軽動脈切断による失血死、薬物や毒物の中毒死、ガスや練炭での窒息死、飛び降り自殺、自爆、飛込み自殺、銃殺、割腹、感電…といった自殺を行うための自殺用品。それから保険金を得るための自殺の偽装手配、遺書の書き方講座や代筆サービスも行っております。 もちろんこれらの自殺には一人ずつプロの担当者の方が責任を持ってお客様に付きます。なぁんて安心! 万が一何かの不都合で自殺が行えなかったとしても、商品担当者とわたくしめが直々にアフターサービスに向かわせて頂きます。 ゆりかごからとは申しませんが、墓場まで我々はお世話させて頂く所存です。なーんてうふふ。 さぁお客様、自由に店内をご覧下さって構いませんよ。何かお困りの点があればなんなりとこのナマエにご相談くださいませ。 当アカツキ自殺用品専門店はお客様の安心安全で心良い死出の旅路を願っています。 『カミソリは痛い、水は冷たい、薬は苦い、銃は違法、縄は切れる、ガスは臭い。 生きてる方がマシ。』 映画「17歳のカルテ」より END 20150325 |