番外編 | ナノ

▼きみの折った矢がうさぎを射止める

※暗殺チーム加入初期の話

「痛いだろう?」
労るように聞いてくる男には嫌悪感しか湧かない。お前がやったくせに、とネグリジェの裾を握りしめながら憎々しげに男を睨みつける。
男が真っ赤に染まった脱脂綿を私の口から取り出していく。その度に私自身の惨めさが増していく。
ちょっと舌を動かしたり、口を開けたりするだけでも針で一々刺されてるみたいな激痛が走る。その痛みで恥ずかしいぐらいの悲鳴と血の混じった唾液が零れ落ちるから、もう最低最悪の気分だ。
目の前の男……リゾットに、咥内をズタボロにされたせいで、ここ2日はまともに食事もできていない。私はこのまま餓死するんだろうか。そうならせめてこいつを殺してから死にたい。
「これに懲りたらもう反抗的な態度は改めるんだな」
言い聞かせるみたいな口調で、ヒリヒリする真っ赤な私の口の中にピンセットで再び脱脂綿を詰めていく。薬臭いのが口いっぱいに広がって噎せそうになった。思わず涙が滲む。
私をベッドに寝かせ、リゾットは親が子供にするみたいな手つきでタオルケットをかけた。剃刀を食わせた奴と同じ人間には思えない。
口いっぱいの脱脂綿を噛み締めながら睨みつける。
「安静にしていればじきに血も止まる。口の中は治りが早いからな」
他人事みたいに平然とそう口にするコイツは完全にイカれたサイコ糞野郎だ。
私いつかアンタを殺すわ。絶対殺すわ。
そう心の内で唱えると、標的は黒目に赤い瞳の目玉をぎょろりと剥いた。花を手折るように人間を殺す視線。剃刀を食わせられた時もこんな目をしていた。
どうやら私の思考は読まれているらしい。
ふと、ぐぐっと食んだ脱脂綿を親指で押し込まれる。咥内で擦れる綿が痛いのと、口いっぱいに鉄錆の味が広がるのが気持ち悪くて思わず呻いた。抗う手が太い筋肉質な腕を引っ掻く。
滲む視界で男の顔が近付いた。
「おやすみ」
親指が離れると同時に、額に軽く接吻が落とされた。一瞬、何が起きたのか分からなかった。が、直ぐにぞわっと怖気が走って身震いがする。
コイツは牙を抜く方法をよく知っている。そう直感してしまう。
屈辱と嫌悪を私に植え付けてリゾットは颯爽と部屋を出ていった。

私いつかアンタを殺すわ。絶対殺すわ。
血塗れの口を精一杯動かして、自分への戒めのように呟いた。

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