番外編 | ナノ

▼愛に似て非なるもの

「あれ」は、常人には理解し難い、独特の美意識を持っている。

「寒い時、人って目の縁がうすぅくピンクになるんですよね、あれって…綺麗だと思いませんか…?」
まるで「ご機嫌いかがですか」というくらい気軽な調子だった。
雪景色の中で佇む大統領の飼い犬は、白い息を荒く吐きながら俺を見つめる。

元々「あれ」は白痴めいた言動が目立つことはよく見知っていた。しかしそれまで面と向かってちゃんと会話という会話をしたことがなかったので、投げかけられた奇異なその質問に一瞬どう反応していいものか迷った。
「あ、あのピンク色、コスモスみたいに鮮やかですよね…頬の赤みもあいまって、とても素敵」
無言の自分を気にすることなく、右側だけ仮面で覆われた顔がにやりと笑った。唇の端から尖った八重歯が覗く。白い仮面の下の、あのおぞましい醜い面も笑っているのだと考えると、心の中に苦い汁のようなものがわいてくる。
「ウェカピポさんの、ここも、綺麗ですね」
酔ったように頬を染めた「あれ」が、長い指を伸ばして目元に触ろうとしたので咄嗟に振り払う。静かな白の風景にかわいた音が響いた。
「あれ」はしばらく振り払われた手を宙に上げたまま、ぽかんとしていたがすぐに微笑みを浮かべた。青白い顔から滲み出てきたような愉悦の表情は、沼の底を見ているみたいにしっとりとしていて得体の知れなさを孕んでいた。
「手、あったかいんですね」
「あれ」はそう言うと自分の掌を頬に当てた。

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