死春期
*アクセルROと
※暴力表現

虐めて、殺してみたくなる。
それはまるで病のように唐突に、熱帯夜のように理不尽に俺を襲う。欲求を我慢すればするほど激しい飢餓感に苦しめられ、酒でも女でもそれは誤魔化しきれない。
だからたまに小動物を捕まえては虐待し、殺している。殺人と比べれば手遊び程度にしかならないが、仕事以外での無駄な殺しはするなと大統領から命ぜられている。不服だが高給とそれなりの身分を約束されているぶん、逆らう訳にもいかない。
そしておあつらえ向きに衣食住をしている宿舎の庭でも虫や小動物はよく取れる。虫はつまらない。いじめがいがあるのは小動物だ。
小鳥の足をちょん切り、羽根をもいだこともある。あれは楽しかった。名も知らぬ鳥だったが、達磨状態になっても地面で転がって囀る声は心地よかった。

官邸にも面白い動物が飼われている。
《それ》は大統領の飼い犬で、普段は諸々の雑用をしている。飼い主の大統領だけでなく、刺客として雇われているだけの俺のような人間にも敬語を使い、腰が低い。
一見してみると人間の女の貌をしているが、右の面がこの世のものとは思えないほどぐちゃぐちゃに崩れていて醜い。その醜さ故に人から避けられてきたせいか性格も気弱な奴で、普段は上等な仮面で隠してなんぞいるが、それを暴きたてて蹴倒しただけですぐ泣きじゃくる。泣きながらいつも大人しく打たれているだけなのだ。生憎大統領のペットだから殺すことはできないが、嗜虐心を満たすには丁度良い逸材だった。

理由もなく苛々していて、いくら酒を呷っても鎮まらない時には掃除をしている《それ》をとっ捕まえる。
陶器製の仮面を無理やり引っぺがしてやれば《それ》は悲鳴をあげる。左の顔が泣くと同時に、右の化物も涙を流すのが不思議な光景だった。
かち割った柘榴のような赤い皮膚。そして全体がぶつぶつとした疣なのか吹き出物なのか分からない腫れ物に覆われ、所々それが潰れて黄色の体液が滲んでいるのがなんとも気持ちが悪い。そして飛び出た眼球はこっちを見ている。黄色味を帯びた白目のおぞましさに思わず身が竦んだ。
「私、また何か、しましたか」
すっかり腰を抜かした《それ》が震えながら無駄な質問をしてくるので髪を引っ掴んで壁に頭を叩きつけた。一度、二度、三度。ぐったりした頭を持ち上げて様子を見ると鼻がひしゃげて額から血が滲んでいる。鼻血もだらだらと流れていて汚いなと思い、髪の毛から手を離せば力無く《それ》は倒れる。
ふぅ、と一息ついてからポケットに入れていた煙草を一本取り出した。マッチを擦る時に指に《それ》の髪の毛が絡みついていたのに気付き、舌打ちする。
とりあえず煙草を咥えながら脇腹を踏んだ。か細いうめき声と軍靴越しに伝わってくる柔らかい肉の感触に思わず口角が上がるのが分かった。
「お前って本当に不細工だよな」
天井に上がっていく煙を二三度見送った後に足下で転がる犬畜生を憐れに思いながら見下げる。醜くなければこんなふうにいたぶられることも無いだろうに。醜くなければ少しは人間扱いされるだろうに。
そう思いながらどうぞという風にさらけ出してある生じろい首筋へ火の付いた煙草をぐりぐりと押し付ける。一瞬だけ肉が焼ける臭いがした。
喉から絞り出すような悲鳴を漏らし、涙を流す《それ》はカーペットを握って痛みを堪えている。
いつか見たあの達磨状態で鳴く小鳥が頭をよぎる。徹底的になす術もなく虐げられるしかない弱い生き物。ある意味そういう奴等のお陰で俺は精神の安定を保っていられるのだ。その点では感謝しなければならない。

さっきまでの頭の中で沸き返っていたような泡のようなものがようやく静まった気がした。今はもう、憑き物が落ちたみたいに心穏やかだ。
「不細工だなんて言って悪かったな。嘘だよ、お前には感謝している」
ふいに優しい言葉をかけたい気分になって、考えるより先に口に出していた。首に今さっきできた天道虫みたいに小さくて赤い火傷を撫ぜ、そのまま煉瓦色の髪の毛を梳いてやれば《それ》は忘我の表情を浮かべていた。
腐った生卵みたいな眼球がじっと俺を見ている。
なんだこの不細工死ねばいいのに。

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