朝6時にペッシは目を覚まし、着替えをし、歯を磨き、チャームポイントのパイナップル頭を手櫛で軽く整えてからアジトのナマエの部屋へ足を運んだ。
白い木の扉を3回ノックしてから「ナマエさん起きてくだせェ、学校に行く時間ですよ」と扉の向こうにも聞こえるように声を張り上げる。するとしばらくして「うるさい」と眠たげな少女の声が返ってきた。
それから衣擦れの音やクローゼットを開けたり閉めたりする音がバタバタと響いて、10分ほど経った頃合いにナマエが寝ぼけ眼を擦りながら出てきた。パープルブラックのダイタイ柄が全体に施された、バーバリーのシルクのワンピースがよく似合っている。しかしその服に不釣り合いな青白い素足ともみくちゃになった髪の毛が彼女が朝に弱いことを表している。
「おはようございます」とペッシが角度30度ぴったりのお辞儀をすれば、もごもごと暗い声音で「おはよう」らしき返事が返ってくる。
それからずるずると引きずるような足取りでナマエは暗殺チーム共有の洗面台へと向かう。ペッシは足が不自由な老人を介護するかのように寄り添うように付き添って歩いてやるのだった。

ナマエが顔を洗い終えたらタオルを差し出し、歯を磨き終えたらまた違うタオルを渡す。
ペッシの洗練されたてきぱきとした動きは最初から身についていたものではない。ナマエがそうするように口を酸っぱくして教え込んだのだ。
もともとナマエは他人と関わるのを煩わしいと思っている人間である。暗殺チームに入る以前から彼女はそういう陰気な性質であった。
後輩に指導をするなんて本来もってのほかだった。彼女なりに言わせれば「ティッシュで鼻をかむよりも面倒くさい」。
そんなナマエがペッシに朝の支度を手伝わせるのは彼が素直な子分気質だからであろう。相手が10歳の生意気な子供であろうと、チーム内の序列で「先輩」とされる限り彼は馬鹿真面目に従順でいるのだ。他の血の気が多くてプライドの高いメンバー達ではこうはいかない。
ペッシが唯一の『カワイイ後輩』であるからこそ、ナマエは特別視しているのである。

「もうちょっと優しく梳きなさいよ、髪の毛が抜けるじゃない」
「ああ、すいやせん」
「ほんと男はガサツね」
洗面台の三面鏡の前に座ったナマエの髪の毛を豚毛のブラシ梳くペッシ。憎まれ口を叩かれるのは毎朝のことで、子分はペコペコ謝りながらも苦笑して頬が綻んでいる。
丁寧に梳かれた黒髪はナマエが手馴れた手つきで、三つ編みにしていく。白く真っ直ぐな髪の分け目が、頭頂部の真ん中にくっきり出ている様子はまるでヴァイオリンの弦のように張り詰めていた。

「どう?おかしい?」
「おかしいわけないじゃあないですか!毎日同じ髪型なんだから」
「……余計な意見をどうもありがとう」
「あ、あー!でも三つ編みが一番似合ってるから大丈夫!」
「今さらフォローしても遅いわよ」
神経質な三つ編みを振ってずるずるとまた足を引きずるように洗面所を出ていくナマエ。その後を慌ててついて行き、ご機嫌をとるように宥めるペッシ。
二人の騒がしい朝の支度はまだ始まったばかりである。



20160225




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