こっちを向いてよ生意気さん


「よし、これで完成です!」

カウンターに並ぶ四つのお弁当箱。お揃いでピンク色をしたそれには隙間無くおかずが詰められています。
いちはらえつこは朝食と一緒に最近は皆さんのお弁当を作るようになりました。
我ながら味はもちろん、栄養バランスも見た目もこだわった自信作です。皆さんに喜んで頂けること間違い無しですね!





「いらねぇ」
「へ、」

金髪でお馴染みのデイダラさん。一瞬私は言葉が理解できずにお弁当箱を持ったまま固まってしまいました。

「だからいらないって言ってんだろ、うん」
「で、でもお昼ごはんが…」
「適当に買って食べる」
「駄目ですよ、若いんですから栄養バランスを…」
「お前はオイラのオカンか!いちいちうっせぇんだよ!うん!」

ぴしゃりと言いのけてデイダラさんは出て行ってしまいました。取り残された私はぽかんとした表情で立ち尽くすしかありません。
同じように出かけるイタチさんや鬼鮫さん、小南さんはお弁当を受け取ってくださったのに…何がいけなかったのでしょう?

「気にしない方が良いわよ」

一部始終を見ていた小南さんが紅茶を啜りながら言いました。続けてその隣で角都さんが朝刊から顔を上げずに大きな溜息を吐きました。

「ああいう年頃の餓鬼は色々と面倒臭い。放っておけ」
「本当にね」
「えぇー…でも…」

お二人にそう言われても私はいまいち納得できませんでした。どうしてデイダラさんがお弁当を持って行ってくださらないのか、それだけが心配で気になって仕方がなかったのです。





「うーん、デイダラさんはお弁当の何が気に入らないのでしょう?」

朝の一件があってから、私は掃除の片手間に色々と心当たりのあることをあげて考えてみることにしました。
嫌いな食べ物が入っていたから?……否、この間混ぜご飯を夕飯に間違って出してしまった時に注意されて、それから気をつけています。
ダイエット中とか?……いえいえ、朝ごはんや晩ご飯は普通に食べていますもの。そもそもデイダラさん、細身で身長が低めだからもっとたくさん食べないといけないと思います!


「あとは…デイダラさんといえば…」

私はそう考えた時に思わず掃除機をかける手を止めてハッとしてしまいました。

「そういえば、デイダラさんって美大生さんなんでしたっけ」

そうなのです。最近知った事実なのですが、今年からデイダラさんは高名な美術大学に通っていて、粘土造形を主に学んでいらっしゃるとか。
そういえば常日頃から芸術がどうのとか他の住人の方達に熱く語っていたのを見かけたことがあります。よほど自分の芸術観に自信があるようです。

「もしかしたら、私のお弁当が芸術的じゃないから口に入れるのを拒んでいるのでは…!?」

私の脳裏には昼ドラに出てくる小姑のように「こんなもの口に合わなくてよ!小娘!」と高笑いするデイダラさんが浮かびました。
なるほど、これは新人家政婦としてやって来た私を試すための試練なのですね…。学校の美術は万年3の成績でしたけど、お弁当を食べてもらう為なら芸術性のあるものを用意してみせます!

「デイダラさん、私頑張ります…!」





一日目。
「今日のお弁当は卵焼きでミツバチ、ハムとうずらの卵でお花を作ったのがポイントですよ。名付けてお花畑弁当!」
「オイラをおちょくってんのか」

二日目。
「今日のお弁当は白いご飯と黄色いご飯でヒヨコとニワトリを作ってみました。顔は海苔、嘴はコーンです!これが本当の親子丼!」
「うまくねぇんだよ!うん!」

三日目。
「今日のお弁当は稲荷揚げでくまさんを作ってみましたよ。あ、ハートは人参とかまぼこでできてるんですよ!」
「あえてもう何も言わねぇ、うん」






そんなこんなで、キャラ弁作りも4日目を迎えようとした頃。私は明日のお弁当の下準備のためにキャラ弁の本とにらめっこしながら台所で格闘していました。
明日はオムライスでキツネを作ってみようと思っていたので、ハサミを海苔で切ってパーツ作りをしていたところでした。

「お前まだやるつもりなのかよ……うん?」
「あ、デイダラさん」

リビングの扉を開けて入ってきたのはデイダラさんでした。

「もう夜遅いし、朝早いんですから寝た方がいいですよ?」
「……オイラは意地でも食わないからな、うん」

私の言葉を無視して投げかけられた言葉に手を止めました。デイダラさんは腕を組んでうんざりといった顔をしています

「だいたい、どうしてそんなに食わせようとするんだよ?オイラ一人の為に馬鹿みたいにそんな手間までかけてまで…」
「私は家政婦です」

デイダラさんの言葉を遮って私は言いました。海苔を切る手が再開する。

「家政婦は家の人達の生活が滞り無く行き届くようにするのが仕事です」
「……」
「デイダラさんのお昼ご飯をより良いものにするのも私の大事な仕事の一つですから」

言い終わるか終わらないうちに海苔のパーツが全て切り終わりました。

「それに自分の料理を残さず食べてくれるのが好きなんですよ、私」
「……どっちかっていうとそっちが本命って感じだな」
「ですね。……だからいつも食事を残さないデイダラさんがどうしてお弁当だけは食べてくれないのか不安で…」

私、ただ料理に自信が持てなくなりそうで躍起になってるんですね。
思わず肩を竦めて苦笑いしてしまう。こんな自分勝手な本音を聞いてしまったら益々嫌われてしまうだろうか。
それからしばらく沈黙だけが流れました。

最初に沈黙を破ったのはデイダラさんの溜息でした。

「別に、お前のせいじゃねぇよ…うん」
「えっ?それは一体、どういう…」
「面倒な奴だな!だから、その、なんていうか……」

あーもう!!とデイダラさんは長い金髪をぐしゃぐしゃにかき乱しています。隠れていた左目が露わになった時、右目と同じくらい真っ青で綺麗だなぁと関係無いことを思ってしまいました。
髪をぐしゃぐしゃにし尽くした後、落ち着いたのかデイダラさんは重たい口を開きました。

「……なんか学校とかバイト先に弁当持っていくのが、は、恥ずかしかったんだよ!うん!」
「えぇっ!?そんな理由だったんですか!?」
「そんなってのは無いだろーが…うん」

驚きの告白に私はぽかんとしてしまいます。デイダラさんの方は頭を抱えてクールじゃないだのなんだのぶつぶつ言っています。
恥ずかしいのはこっちです。

「わ、私てっきり、お弁当に芸術性が足りないから食べてくれないんだと思って」
「はぁー!?」
「だってデイダラさん美大生さんじゃないですか!」

私の方がカミングアウトすれば、今度はデイダラさんがいきなり噴き出しました。遂にはお腹を抱えて床をバシバシ叩く始末。

「あんな幼稚園児の弁当みたいなのが芸術だってのかよ!っははは!」
「そんなに笑わなくたっていいじゃないですか!私真剣だったんですよ?」
「だって、お前、そりゃあ馬鹿すぎるぜ」

ひーひー言って涙を拭きながらやっと笑いが収まったようです。なんて失礼な子なんでしょうかこの人は…!





「お弁当は恥ずかしくなんかありませんよ、失礼な」
「だってよ、誰も身内が作った弁当なんかこの歳で持って来る奴なんかいねぇし…うん」
「そんなの言い訳になりません。これからはしっかり持って行ってくださいね」

ひと騒ぎした後、反抗期の子供を叱る親のような気持ちで私はデイダラさんに言ってあげました。
そして、どうしても不安だったので確認として一つ聞いておきました。

「あの、デイダラさんは結局……別に私の料理が嫌いとかではないんですよね?」
「………えつこの飯が不味かったら今頃ここ出て行ってるぞ、うん」

そう照れ気味にも答えて頂けたのが嬉しくて、私やっと安心できました。
お弁当騒動はひとまず解決できたようです。





あれからデイダラさんはお弁当を持って行ってくれるようになりました。

「でもなんで今になってもキャラ弁続けてんだ…うん?」
「関係無い私たちの弁当も馬鹿みたいな彩りにするのやめてくれませんかねェ?」
「全く…ナンセンスだ…」
「冗談じゃすまされないわよえつこ…」

あれからキャラ弁が楽しくなってしまった私はしばらくデイダラさんはもちろん、出かける皆さんの弁当をキャラ弁にするのを止められませんでした。

「か、可愛いからいいじゃないですか!ね…?」
「戻せ」




20141008

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