神様さかさでワンと鳴く


朝食と共に出かける皆さんを送り出して、一息つける……わけがないのです。
洗濯機をまわして、その間に一階から三階までの廊下を雑巾がけ。洗濯物を干して、リビングに掃除機をかける。
以上の仕事を終わらせた時にはもう11時半。あっという間に時間は過ぎていきます。

忘れないうちに近くのスーパーにお買い物へ行かないと…。今日はサソリさん以外の皆さんは出かけているので、彼の分のお昼だけを用意して私は出かけることにしました。
近所ですし化粧は軽くだけ。服装はシャツにカーディガンを羽織ってジーンズとラフな格好で。
家政婦をしているとお洒落になんかに自然と気を使わないようになってしまうのが悩みかもしれません。あぁ…自分が女を捨てつつあるのを感じてしまいます。





大家さんからあらかじめ貰った地図によると、スーパーはアパートからすぐ近くにありました。便利で有り難いことです。

行く途中の大通りには色々なお店が軒並みに連なっています。
するとパチンコ屋さんの前を通り過ぎようとした時に、たまたま店から出てきた見慣れた人と鉢合わせしてしまいました。

「お、えつこちゃんじゃねーかよ!」
「あなたは確か…飛段さん?」

遠目からでも目立つ銀髪ですぐ分かりました。よく見ればお店の制服らしきものを着ています。

「お仕事ですか?」
「だったんだけどよー、今辞めてきた」
「は!?」

一瞬耳を疑う発言に思わず声をあげてしまいます。びっくりする私をよそに飛段さんはなんでもないかのように快活に笑っているだけ。
どうしてそんなに陽気でいられるのか疑問で仕方がありません。

「どうしてまた急に…」
「いやーやっぱり店長がマジムカつく奴だったからさぁ〜。呪ってやろうかってぐらいに」
「の、呪…?」
「俺が辞めたことでこの店にはジャシン様の裁きがくだるぜェ!」

呪いとかジャシン様って何なんでしょう?
ゲハハハハァと独特の笑い声をあげてパチンコ屋さんを指差す飛段さん。周りの人目について目立ちまくりなので、私は慌てて彼の腕を引いて歩くことにしました。
えつこちゃん意外と積極的〜という声はこの際無視します。

「で、えつこちゃんの方はなんでこんなとこにいるんだァ?」
「私はスーパーへお買い物に行く途中で…」
「あぁーなるほどなー。じゃ、俺も暇だからついてくぜ」
「え、」

突然の同行に唖然としてしまいます。

「いや、でもそんな…悪いですよ」
「いーから、いーから!遠慮すんなって!」
「は、はぁ…」

バシバシと肩を叩かれて困惑しつつも流されるまま頷いてしまいます。
最初に絡まれた時のこともあって、飛段さんのこういうノリは少々ついていけません。





買い物をしている時の飛段さんは絶えずしゃべりっぱなしでした。よく口が疲れないなぁと感心してしまうほど。
特に野菜の売り場に行くと益々口数が多くなります。

「うへぇ、マジかよそんなの入れんのか?」
「あら、ピーマンは嫌いなんですか?」
「っていうか、野菜全般ムリ」
「えぇ…いけませんよ好き嫌いしちゃ」

確かに見た感じ野菜嫌いってお顔してますよね。しかしいい歳なんですし、我儘言って食べないなんて大人気ないです。

「勘弁してくれよ、えつこちゃんよォ」
「私が来たからにはそういう駄々は通用しません。残さず食べてもらいますから」
「……マジかよ」
「マジです」
「……意外と性格キツいんだな、えつこちゃん」
「生活の乱れに関してだけです!」

飛段さんのお言葉が癇に障ったので、とりあえず買い物カゴには嫌というほどお野菜を詰め込んであげました。





なんだかんだやりとりはあったものの、清算を済ませて買い物は無事終了。
ただ思った以上に荷物が多くなってしまいました。

「頑張って持つしか…」
「おいおい、全部持ったら重いだろ?俺が半分持ってやるから」
「えっ、そんな…良いんですか?」
「良いんですかもなにも、その為についてきたんだろーが」

遠慮すんなって!
飛段さんはそう言って半分といわずに全部持ってくださいました。た、逞しい…といえば良いんでしょうか?男の人だなぁと感心してしまいます。
不覚にもちょっとときめいてしまいました。

「あ、ありがとうございます!」
「礼なんていらねぇよ。あっ、ジャシン教に入ってくれるっていうなら話は別だがな!」
「ジャシン教…?あ、いえ、宗教には全く興味無いので…」
「えぇーなんだよノリ悪ぃなえつこちゃんよぉ!」

危うく宗教勧誘されてしまいそうになったのは別として、少し苦手かなぁと感じていた飛段さんの好感度が上がったような気がしました。


しかしだからといって、その日の夕食が野菜炒めに野菜サラダという野菜尽くしなのは変わりませんでした。



20141007


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