西瓜の種は苦い


私の朝は早いです。
無意識的に朝の五時くらいにはもう目が覚めてしまいます。

「あれ、えっと、私…」

見慣れない天井に寝ぼけた頭が混乱していましたが、しばらく経ってやっと昨日までのことを思い出しました。
私は暁荘で住み込みの家政婦をしているのです。

布団から起き上がると服を着替えます。髪を梳かして邪魔にならないように後ろで結び、洗顔と歯磨きをするために一階へ階段を降りました。





二階にさしかかった時についでに203号室の食器を回収してきました。昨日の夜にデイダラさんの話を聞いて、サソリさんの部屋の前に置いたものです。
ご飯は綺麗に完食されていて、それだけで家政婦としてはとても嬉しいものです。

食器を台所の流し台に置いて、急いで歯磨きと顔を洗うために洗面所へ。

さっぱりして目が覚めた状態でリビングに戻ってきました。部屋はシーンと静まり返っています。この一階だけに限らず、他の階もとても静かです。
ここの住人さんはみんな朝に弱いのかもしれません。

「あれっ?」

電気をつけて部屋を見渡せば、隅の小型ソファに誰か寝転んでいます。
近づいてみれば、若い男の子がぐっすりと眠っていました。歳はデイダラさんに近いくらいでしょうか。見たことが無い住人さんです。
紅玉のように真っ赤な髪が目立ち、何よりその顔はとても美しい貌をしていました。陶器のように白い肌、長い睫毛、薄い唇。
まるで等身大のお人形さんのようです。

ぼーっと暫く見惚れてしまっていました。いけないいけない。
こんな所で寝ていてはこの人風邪をひいてしまいます。

「あのー、もしもーし?起きてください、風邪をひいてしまいますよ」

寝ている美少年さんの肩を軽く揺さぶってみました。そうすれば、小さい呻き声を上げて薄く目が開かれました。
茶色い瞳とばちっと目が合います。

「目が覚めました?」
「……」
「起こしてしまってすみません、でも風邪をひいてしまうと思いまして」
「……うるせぇ、飯炊き女」
「へ、」

綺麗な顔に全く不釣り合いな、棘のある物言いに思わず石のように固まってしまいました。
石になった私を押しのけ、美少年さんは起き上がると背を向けてさっさと出て行ってしまいます。

…自己紹介をしないうちに行ってしまいました。ぐっすりおやすみだったところをお邪魔したから機嫌を悪くしたのかもしれません。
また会うことになったら謝罪をしなければ。
…そしてなんとなくですが、あの人がデイダラさんの言っていたサソリさんなのではないかなと思いました。
しかし綺麗な人だったなぁ…。





サソリさんが出て行った後、私は早速朝食の準備を始めました。材料は昨日と殆ど同じものですが、レパートリーを変えてしまえば充分問題無い筈。
鼻歌混じりにお米を研いでぼーっとしていますと、背後で扉の開く音が聞こえました。

「わ、見たことない人だね」
「オマエ誰ダ?」

立っていたのは二人の男の人。それはまた目を丸くするような外見の方達で。
二人とも顔や背丈、髪型まで一緒なのですが、絵の具で塗ったように片方は真っ白、もう片方の人は真っ黒という肌の色。
住人さんの人数は9人と聞いていたのにまさかの双子さんです。

「私、昨日から家政婦としてここに来ました。いちはらえつこといいます」
「アア…大家ガ言ッテイタナ、ソンナコト」
「いい子そうだね」
「ウルサイ、デレデレスルナ」

双子さんはなんだかわいわいと話している。仲が良いんだなぁとその光景を見てほっこりしてしまいます。
一人っ子の私としては兄弟というのはいくつになっても羨ましいものです。

「ぼくたちはここの住人のゼツだよ。写真家で出張が多いけどよろしく」
「写真家さんなんですか!すごいですね」
「まだまだ無名だけどね…」

白い方のゼツさんが苦笑しながら謙遜するけれど、出張が多くて忙しいということは無名とはいえないのではないでしょうか…。

「仕事帰りデ疲レテルンダ。サッサト休マセテモラウゾ…」
「あ、まってよー。…じゃあね、えつこ」

黒いゼツさんはスタスタと出て行ってしまいました。その後を慌てて追いかける白ゼツさん。仲が良さそうで何よりです。


さっきはサソリさんに邪険に扱われてしまいましたが、ゼツさん達を見ていたらなんだか癒されました。
……イタチさんが言っていたとおり、ここの住人さんは変わっていて気難しい人が多いです。けれど決して悪い人達ではないですし、過ごすうちに仲良くなることだって難しいことではないのかもしれません。

大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせる声は自然と柔らかくて、昨日の不安の色はすっかり失せてしまっていました。

台所ではリズミカルな米研ぎの音だけが響いていました。



20141005




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