ビスケット・ジャムの紅茶漬け


お姫様が出てくるお伽話の絵本より、幼い私が決まって誕生日にねだるのはシルバニアファミリーのお家でした。
幼い頃から家政婦の道を歩んできた私には、お姫様になってお城へ行くより、ミニチュアでおままごとをしている方がずっと楽しいことだったからです。





祖母も母も、私が物心ついた時には家政婦という職業に就いていました。加えてこじんまりとしたものですが、家政婦紹介所の先代と現所長でありました。
祖父と父は私が生まれる前に若くして他界していたので、女親二人に炊事洗濯掃除などの家事を教えられて育ちました。

私自身も家事をすることは大変だけれど好きでしたし、家政婦になったのは必然だったといっても良いでしょう。





「住み込み…ですか?」

ある日いきなり母から新しい仕事の話を切り出された時、私はぽかんとしてしまいました。

「そうなのよ、共同アパートの賄いをしてほしいんだって…」

母はデスクに座って資料を眺めながら溜め息を吐きました。

「でも今ちょうど住み込みできるほど手が空いている人がいなくて困ってるのよ」

確かに、その時は示し合わせたように私よりずっとベテランの家政婦さん達は出払ってしまっていたのでした。
しかもうちの紹介所に雇用されている家政婦さん達は家庭がある主婦の人ばかり。住み込みをできるくらいの時間がある方がなかなかいないのです。

「申し訳ないけど、断りの連絡を入れるしかないかしら…」

母がそう零した時でした。


「えつこに行かせれば良いじゃないか」
「えっ?」

気付けば祖母が私の隣に立っていました。
いきなり名前を出された私は吃驚するしかありません。

「そんな…えつこはまだ家政婦になってから日も浅いじゃない」
「この子には小さい頃から私達が家事を教え込んだだろう。家事の腕ならそこらの主婦よりずっと上さ」

祖母はそう言って私の肩をポンと叩きます。

「でもね、この共同アパート…ほとんど入居者が男なのよ?年頃の娘をそんな場所に働きに行かせて良いのか心配で……」

母は資料をパラパラとめくりながら顔をしかめます。
……確かに女性に囲まれて育てられた私はどちらかといえば、異性慣れしていないかもしれません。母はそれを心配しているのです。
しかしながら祖母はそんなこと全く気にしていなかったようで…

「大丈夫だよ、こんなちんちくりんの小娘を女として見る奴なんていないさ」

そう言ってケタケタと笑う祖母は私には鬼婆のように見えたのでした。
冗談だとしても、実の孫をそんな風に…。

かくして、私に住み込みの家政婦としての仕事が任されたのです。



20140930

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