おめめを隠そ


「いちはらさんのお家ってさ、召使いの家なんでしょ?」

小学校の頃でした。
同級生の子の中には私の家が家政婦相談所ということをからかう子が何人かいました。子どもの輪の中で異質な家庭だということはあまりに目立ちすぎました。小学校高学年になってからでしょうか。クラスの中で私は都合の良い雑用係という身分を与えられていました。
「召使いの家の子だから」ということで掃除当番を押し付けられて、放課後の一人ぼっちで掃除をするのは日常茶飯事。お花の水やりも飼育小屋のうさぎの世話も私の仕事。昼休みも休み時間も遊ぶ暇がありませんでした。
クラスの子達に利用されてこき使われるのは辛かったです。けれど家事やお手伝いは慣れっこですし、嫌いではありません。
私はただ言われたことを反抗もせずに黙々とこなしていました。



「えつこはなんで言い返さないんだよ?」

赤切れの手で雑巾がけをする私にたった一人私にそう声をかけてくれたことをよく覚えています。名前は思い出せません。
ただ、野球部で短く刈った頭がよく目立つ男の子でした。私とは違い、クラスの皆の輪の中心にいるような気質の子で、声をかけられたことなどそれまで一度もありませんでした。

「やられっぱなしなんて悔しくないのか?」
「いいの、私お掃除好きだしお家でもしてるから慣れっこだもの」

私はにっこりそう返しました。
男の子はなぜか悲しそうな顔をしていました。


「お前さ、なんか窮屈そうだよな」


ぽつりと呟くようにそう言ったのを私は忘れません。そして未だに私はその言葉が刺のように胸の内に引っかかっているのです。






私は誕生日プレゼントにもクリスマスプレゼントにもお姫さまが出てくるものを欲しがることはありませんでした。絵本もビデオも。
あまり好きではなかったのです。
特にシンデレラのお話は。

ボロボロの服を着た召使い同然のシンデレラが魔法使いさんの魔法でドレスを着て、舞踏会に行って、最後にはガラスの靴をきっかけに王子様と結ばれるお話。

素敵だとは思うけれど、自分だったら掃除や洗濯をして平凡に過ごすのがずっと良い。綺麗なドレスもガラスの靴もカボチャの馬車も無くったって平気。
灰をかぶって仕事をするのは苦でもなんでもない。

「私にはきっとそれが幸せ」

素敵なお伽噺を遠目に見ながら私はいつもそう自分に言い聞かせます。
私が決まって誕生日プレゼントにねだるのはシルバニアファミリーの小さなお家。それでおままごとをするのは灰かぶりの私。




20150102

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