【死んだ男の回想】
僕はナマエという女のことが好きだった。
ホワイトハウスの衛兵をしていた時に毎日庭を散歩するナマエと時たま話をするようになってから交際を始めた。彼女の礼儀正しく、真面目で、故郷の母や姉を思わすような貞淑さに心奪われた。僕の彼女への想いは本物だった。
嗚呼、しかし、彼女はあろうことか僕を裏切ったのだ!

「愛してる」
ある日、ナマエがそう囁いていた相手はブロンドの長い髪を持つ、レインコートを模したようなデザインの黒いワンピースが似合う華奢な女だった。ナマエより年上に見えたが、下がり眉がどことなく艶やかな雰囲気を醸し出している美しい顔をしていた。
彼女達は庭園でも人目の少ない日陰となる場所で、白く長い指を互いに絡ませて接吻を交わす。接吻をしている時のナマエは薄く瞼を閉じ、頬を薔薇色に染めて、夢見る少女のようでありながら淫らな薫りをさせていた。僕の前では決して見せたことのない表情に恍惚となる。罪深い姦通の現場だというのに、僕はすっかり寄り添うように咲く二人に見惚れてしまっていた。
そして悟った。ナマエは僕を本当に愛してはいない。そして僕もナマエをこれ以上に愛すことはできない。
真に愛した女性だからこそ僕の絶望は大きかった。同時に“彼女の前で死なねばならぬ”と強く心で決意し、暗い衝動に突き動かされた。

あの事件の日、郊外の仕立て屋に出掛けていったナマエを待ち伏せした。共にいる女はこの間の女性ではなかった。彼女はやはり僕が思っていた以上に淑やかなどではなく、浮気者だったのかと残念に思った。
「話があるから来てほしい」
いきなり目の前に現れた僕に吃驚するナマエともう一人の女を連れ立って、店の近くの路地裏に入った。暗くじめじめとした汚い場所だった。
手にしたピストルを自らの口に咥えて引鉄を引くまで時間はかからなかった。もう心は決まっていたからだ。銃声を聞く暇も、ナマエの姿を見る暇もなく、視界も頭の中も赤黒く染まった。僕はバッタリと倒れ伏した。

その時誰か忍び足に、僕の側へ来たものがある。僕はそちらを見ようとした。が、僕のまわりには、いつか薄闇が立ちこめている。誰か、……その誰かは見えない手に、そっと手からピストルを抜いた。瞬間、僕の咥内に音高く続けて銃弾が撃ち込まれた。
同時に僕の口の中には、もう一度血潮が溢れて来る。
僕はそれぎり永久に、中有の闇へ沈んでしまった。………
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