【マジェントの回想】

ナマエという女は不安定だった。仕事の時は言われたことを淡々とこなす真面目ちゃんだったが、常に何かに依存していないとダメな性格らしく、同僚として仲良くなった頃から俺にぴったりとくっつくようになった。
ちょっとでも一人にするとすぐイライラするのがすごくいじらしくて可愛いかった。
でもそういう奴だから、もし俺と離れることになったらナマエはどうするんだろう。たまにそう、ぼんやり考えることは少なくなかった。

俺のシルクハットを引き取りに、ナマエと仕立て屋に行った時のことだった。新品のシルクハットは俺の頭にぴったりだったし、色もリボンも注文した通りで可愛かったので満足だった。店を教えてくれたナマエも珍しくニコニコしてたし機嫌が良さそうだった。(いつもそうやって楽しそうにしてたほうが可愛いのになァ…って少し思った)
問題が起こったのは店を出てからだ。待ち伏せしていたのか男が俺達の前に颯爽と登場してきた。高そうな黒の上下スーツ姿で身なりが良くて顔もキレーな男だった。「やぁ、久しぶり」と声をかけられてやっと知り合いだったのを思い出す。うん、確かそうだ、前にちょっとだけヤってちょっとだけ付き合ってた奴。顔は悪くないし金は持ってたけどなんか面倒くさかったからいつの間にか会わなくなってた。
今さら何の用かと思ってたらいきなり「僕と一緒に来ないか」だって。思わず「はァ?」って馬鹿みたいな声が出た。
「最近連絡してくれないと思ったらまだ危ない仕事をやっていたのかい?僕、もうすぐ衛兵を辞めて新しい土地で友人と一緒に事業を始めようと思ってるんだ。鉄工に関わる仕事なんだ」
早口でどこか興奮したみたいな口調でまくし立てる男。最終的にまた「僕と一緒に来てほしい」って一言で締めた。
俺はいきなりそんなこと言われたもんだから呆然としてて、胸に抱えた帽子の箱を落っことしそうにもなった。えーとかあーとか返事にならない声ばっかりが出るだけのその時の俺はきっと隣にいたナマエをやきもきさせたに違いない。
「ここは人目があるからどこか別の場所で話しましょうよ」
突然、ナマエのぶっきらぼうな調子の声がしたと思ったら強く腕を掴まれ引っ張られてた。ずんずんと大股で歩いていくナマエの顔を引きずられながら覗き込めば、そりゃあ見たことないくらいに怒りで真っ赤だった。今にも食いちぎりそうなほど噛み締めた唇を見て、あぁこれは俺が殺されるかもしれないと直感したよ。後ろからついてくる男の慌てたような声を聞きながらアイツも殺されるかもしれねぇな、と考えた。二人で死体になってナマエに埋められる想像が容易にできた。

でも結局、殺されたのは男一人だけだった。
ビックリしたね。いつも俺よりは考えて殺しをするナマエが路地裏に入った途端に男の口にピストル突っ込んだんだから。そんで、何て言ったと思う?“こいつはあたしのもんだ!全部あたしのもんだ!”って泣いてんのか怒ってんのか分かんない顔して大絶叫。男の口ん中にピストルがぶち込まれた。
銃声を聞いて体の芯までシビれる感じがした。男の頭から血飛沫が舞う光景がスローモーションみたいに見えて、まるでバースデーパーティーの紙吹雪みたいにそりゃあ綺麗だった。そこに髪を振り乱して肩で息するナマエが立ってて、俺を縋るような目で見ている。
“俺のためにこんなに必死になってくれるのか!人まで殺すくらいに!”
そう思ったら嬉しくて嬉しくて、ナマエのことが大好きになった。(陰鬱なる興奮)
俺は、ナマエが大好き。
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