そうやってすぐいたみで証明しようとする

「再点火したな」
ライターの火の揺らめきとともに大きな影が私の視界を覆った。見上げると、黒いマントを羽織った人間ではないものが立っている。
それはヴェネツィアの祭りの仮装を思わせる風体をしていて、不気味でもあったがどこか言い知れぬ優雅さも感じられる。
しかし得体の知れないものに行く手を阻まれ、思わず恐怖からその場に尻もちをついてしまう。
今まで女だてらに裏社会で様々な破落戸共を相手にしてきたが、こんな異形は規格外だ。
私は殺される。
咄嗟に出た直感は異形の口から出た黄金の矢を見た時、はっきりと確信に変わった。
瞬間、ずぶっと肉を裂く音がして地面に後ろから倒れ伏す。見ると自分の胸の真ん中に異形の口から出ている黄金の矢が刺さっていた。
まざまざと自らの身体を貫かれた様子を見せられ、思い切り叫び出したかったが口腔からせり上がってきた鮮血の波によりゴポゴポという醜い水音をたてて吐血することしかできなかった。
私を押し倒し、胸へ矢を突き立てている異形の化け物はのっぺりした無表情のままだ。
刺し貫かれたとんでもない痛みに喘ぎ苦しみながら異形の羽織るベルベットのマントに縋り付く。痛みで頭がまわらない。苦しい。
しかし悶え苦しむのは最初のうちだけで、次第に痛みはぼんやりとしたものに変わり、死んだ先の天国に潜在意識が向かっているからか一種の快感にたどり着く。まるでこの不気味な異形に犯されてるような錯覚すら覚える。性欲を持て余したが故の、倒錯的な妄想。
ひくりと下腹部が疼く。
「はっ…」
吐血が止まった喉から甘い溜息が漏れた。駄目だ。苦痛と快感のあいだに惑いながら落ちていく。目の前がどんどん暗くなる。
腹上死なんて屈辱だ。
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