パセティックなラヴの芽吹き

「リンゴォさんってこういう生活長いの?」
「こういう、とは?」
「田舎の生活」
リンゴォさんお手製のミートパイを齧りながら聞いた。田舎という言い方は失礼だっただろうか、と思ったが彼はお茶をマグカップに注ぎながらあぁ、まぁなと静かに頷く。リンゴォさんは静かで、穏やかで、なんというか普通の人よりずっと達観してるような人だ。あまり細かいことで怒ったり、感情を掻き乱したりしない。だいぶ年上だけど若いだけのちゃらちゃらしたヤツよりずっと魅力的に思える。
「まったりしてて良いですよねぇ、ここ。ワシントンみたいな街なんか誰も彼も忙しくって嫌になっちゃう」
「……なら住めば良い」
「は、えっ?」
「このくらいの家ならすぐに作れる。土地はいくらでもあるから近くに建てれば良い」
びっくりした。一瞬ドキッとした自分が馬鹿みたいだ。一緒にリンゴォさんと住むなんて馬鹿な妄想をかき消す。
「そうですねー…レースが終わって、とりあえず大統領のお仕事が終わったらのんびり暮らすのも悪くないかもですね」
「そうだな、決闘の機会が少なくなるのは味気ないが…穏やかに暮らすというのも悪くはない」
リンゴォさんはふっと目を細める。柔和なその表情に胸が高鳴る。あぁ、この人のこと好きかもしれない。
本当にレースが終わって、大統領からもらった報酬でこの辺に家を建てようか。人形のドールハウスみたいな古めかしいけど可愛いらしい家を。そうしたらいつでもリンゴォさんに会える。そしてこの美味しいミートパイの作り方を教えてもらおう。


「リンゴォ・ロードアゲインが死亡した模様」
突然の悲報だった。レースの選手であるジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターと交戦し、亡くなったのだという。
呆然となったが、不思議と涙は出なかった。チープな悲恋モノの活動写真で泣く私がだ。
あぁリンゴォさんがいないなら私はレースが終わっても平和に暮らすなんてできないな、と考えた時、彼に自分が心底恋をしていたのだと分かった。
もうあのとびきり美味しいミートパイが食べられないのだと思うと、相変わらず涙は出なかったがあぁぁと情けない悲鳴のような声が出た。

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