眼球に貼りついたレンズを無理やり剥がすみたいに

「鋼田一豊大」さんは立派な大人なのに変な人だ。
街から離れた大きな送電鉄塔に住居を構え、テレビで某男性アイドルグループがやっているみたいな自給自足のサバイバル生活を続けている。加えてその家である鉄塔から一歩も外へ出ようとはしない。本人曰く込み入った事情で「出ようとしても出れない」らしい。お陰で私はバスを乗り継ぎ、一時間半かけて「鋼田一」さんに会いに行っている。一度は杜王町駅のステンドグラス前で待ち合わせをしてみたいが希望は薄い。
それから、「鋼田一」さんは極度の人見知りで恥ずかしがり屋である。証拠に、いつも本物の顔みたいな覆面を被っている。何度も会いに来ている私さえ一度もその素顔を拝めた試しが無い。
鉄塔に来る観光客達には一見優しく接しているように見えて、その覆面からやはり壁を感じてしまう。「鉄塔から出られない」という可笑しな事情も彼の他人に対する拒絶が関係しているのだろうか。
「「鋼田一」さんのことすごく好きですよ」
「君、漫画家かなんだかの岸辺露伴のファンって言ってたじゃあないか」
「いや、憧れの“好き”とは違ってですね…あ、友情としての“好き”でもないですよ」
アハハハ。
から笑いが彼が黙ってしまったことで余計に虚しく感じられる。
「馬鹿な事は言うもんじゃあないよ」
長い沈黙の後、「鋼田一」さんは窘めるように優しくそう言った。
覆面の下で、笑みの形に釣り上げた口角が痛そうに引きつっている。
それが観光客向けのパフォーマンスと同じものだと気付いて、すっと血の気が引いた。

※「鋼田一豊大」は偽名である。
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