すばらしいね

私の右の脹脛の後ろには10円玉くらいの大きさのアザがある。生まれた時からあったものだ。青紫色をしていて、瓢箪みたいな形の模様で肌に張り付いている。
「見苦しい跡だな」
スカートから覗く私の脹脛のアザを見て、博士は露骨に不快な表情をした。この人は歯に衣着せぬ物言いをする。流行色の口紅を塗った唇で吐いた言葉は、他人の心をいとも簡単に抉る。
「生まれつきなんです」
立つ脚を交差させてアザを隠しながら言う。生まれつき、という言葉に少しは失言に気付いてくれることを期待した。しかし博士はやっぱり博士だった。
「私は醜いモノが嫌いなんだ。生まれつきだろうがなんだろうが、君のそれは気に入らない」

次の日、博士が箱を差し出してきた。シルクのリボンを外して中を開けると靴が入っていた。スウェード生地のサイハイブーツだった。履いたこともない明るいキャメルカラーにはっとする。
履いてみたまえ、と博士に促されるまま渋々とブーツに足を通す。サイズは合っていたが如何せんヒールが高くて立っただけで足がガクガクする。あまりにも滑稽で不恰好だ。そう思ったのだが博士のほうは満足そうに目を細めている。
「これで君の欠点は払拭された」
ブーツにすっぽり覆われた脹脛を見てうっとりと呟く。博士の整った顔に楽しみの表情が脂のように生々しく滲んでいるのを見て、思わず体を石のように固くした。
醜いモノは隠して無かったことにする。
彼の表面しか見ていない目線に言いようのない不安を感じた。
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